溺れる恋は藁をも掴む

 出勤前の百合は、ドアを開けて俺を部屋に上げた。

 紫陽花の色のような薄紫色のスーツ姿の百合。

 そっと抱きしめた。

 「今日……親父の一周忌だった」

 「えっ!?そうだったの?」

 「あっと言う間だった」

 「……うん」

 「そう思えたのは、百合のお陰」
 
 「……私は何もしてないよ」

 「百合が居たから、乗り越えられた」

 「晶…」

 「百合、ずっと俺の傍にいて!

 今日みたいにしんみりしちゃう日は、百合を抱きしめて安心したいんだ!
 ーーひとりじゃないってーー」

 「…うん」

 百合をギュッと抱きしめた。

 「ずっとだぞ!
 ーー結婚しょうーー

 まだ、先の話になるけど、すねかじらないで、ちゃんと自立した時は、俺とずっと一緒にいよう!」


 「晶……」


 親父に見守られながら、好きな女にプロポーズしたつもりだった。


 百合は、その日店を休んで、ずっと一緒に居てくれたんだ。

 親父が好きだった好物をテーブルに並べて……

 「お父様のご冥福をお祈りします」
って、親父の好きだった酒を添えてな。


 ずっと……

 百合とこの日をこうして過ごしてゆくんだと思ったんだ…