溺れる恋は藁をも掴む

 重苦しい雰囲気の中……

 よくよく考えたら、俺は百合に偉そうに言える立場ではなかった。

 俺は好きな時に百合の家にやって来て、百合の優しさに甘えるだけで、バイト代が入った時に食材を買ったり、外食に誘う程度で、百合にプレゼントしたのは硝子靴ぐらいしかない。

 それでも百合は文句も言わず、お日様の笑顔でいつも俺を迎えてくれていたのに……
自分の欲ばかりが先行していた。

 唯一プレゼントした硝子の靴は、百合のベッドサイドに大事に飾ってくれていた。

 『私の宝物だから』って。


 「…ごめん…百合……
俺、言い過ぎた。
自分の事ばっかで、本当にごめん」


 「あーぁ、目が腫れちゃった。
これじゃ、お店無理だわ……
晶と焼肉でも食べようかな?
初めて喧嘩した記念に」


 「百合……」

 「少し贅沢な肉買ってさ、めいいっぱい食べる!」

 「俺がご馳走するよ!」

 「まだまだ親のすねかじり大学生の癖に!
生意気なんだよ!!
 でも、今日は晶にご馳走して貰う。
私を虐めた罰だよ」


 百合は険悪なムードを回避しょうと、大人になってくれた。

 確かに俺はすねかじり。
胸に突き刺さる痛い言葉だよな…

 自立も出来てない俺が、偉そうに言うのは、お門違いだった。




 その日以来、百合の仕事の事は言わないようにした。


 本音を言えば、百合を傷つけて、離れていってしまう事が予想出来た。


 触れたら呆気なく壊れる禁句って、誰にでもあるんだよな……


 俺が真正面から好きな気持ちをぶつければ、ぶつけるほど……


 百合も辛かったんだよな……