溺れる恋は藁をも掴む

 百合は駅前の《クレッシェンド》という店のホステスだった。

 歳は俺より3つ上で、当時21歳。

 「へぇー君、高校生なんだ!?

 私よりは若いって思っていたけど、いい頃だね。

私、高校中退でさ、学歴ないから、生きる道に苦労してんのよ!」

笑いながら、百合は言った。

 「学歴ってそんなに大事?」

 「さぁ、どうなんだろ………?

 勉強ってさ、面白くないからサボるじゃん。

 でも、後になってから、あの時やっておけば良かった!なんて後悔するのよ……

 学歴が全てってわけじゃないかも知れないけど、学ぶ時に学ぶっていう事に意味があるのかもね」

 「そんなもん?」

 「多分、そんなもん。

 学ぶとこ学んで、知らない事は知るべき!
君の未来は無限大だよ!
 これからよ!」

 「大人はみんな同じ事言うんだな」

 「大人だからじゃない?
大人だから、自分の失敗を語って忠告するんじゃん」

 「忠告ね‥‥」

 「あっ!君にお礼しないと」

 「なんの?」

「健康的なストレス解消法を教えてくれたから」


 聞けば、その日の百合はむしゃくしゃする事があって、パチンコ屋で朝から打ってたけど、のまれてしまって、かなりの大負けをしたらしい。

 店の時間まで打って、大勝ちしてホクホクで帰るはずだったのにって悔しそうに言った。

 そんな帰り道に『カキーンカキーン』の爽快音に誘われるように、ここに来たらしいが……

 やってみたら、中々難しくて、打てない自分に余計に悔しくなったとか。

 そんな時、隣でずっと打ち続ける俺を見て、一球でも打たなきゃ、帰りたくない!
 自分も打って、あの爽快音を聞くんだ!って、余計に闘志を燃やしたらしい……

 そんな俺は、段々と百合の天然マイペースぶりに嵌ってしまい、日曜日にファミレスで昼飯を食べる約束までしてしまった。


 「あっ、ごめんね……
これから店だから、日曜日ね!」

 連絡先を交換して、お日様の笑顔は帰っていった。

 俺はずっとその後ろ姿を見送っていた。


 連絡先を紙に書いたあの人の文字を眺め、名前を知った。

 ー樋口百合(ひぐち ゆり)ー