溺れる恋は藁をも掴む

「いい?見ていて!
バッティングの姿勢はこう。
バットを構える角度はこう。
脇はしめる。
腰はここまで落とす。
向ってくるボールの方向を見定めて、目は背けない。
バットを振り下ろすタイミングもちゃんと見る。
『ここだ!』って思うところで、バットを振る」

 百合は俺をじっと見ていた。
スーツ姿のまんま、俺にレクチャーされた姿勢を取った。

 真剣な眼差しで、バッティングのホームを構える。

 マジマジと百合の顔を見たのは、その時かな……

 柔らかくて穏やかな笑顔を浮かべてた。

 決して、美人って顔じゃないんだけど、笑った顔が無邪気な子供みたいに純粋で、やっと球を打てた時の顔は、満面の笑みだったんだ。


 百合はお日様みたいな女だった。

 顔は丸くて、笑うとなくなる目。
口を大きく開けて、嬉しいって気持ちを隠す事なく見せる女。

 コツ掴んで打てるようになるとさ、百合のバットからも、『カキーン カキーン』って、気持ちいい音が響き出したんだ。


 「ヤッター!!」って歓声をあげて、スーツ姿で場違いな格好のまんま、はしゃいで俺の両手を掴んで、飛び上がって喜んでんるんだよ。