溺れる恋は藁をも掴む

 親父への反感から、ファーストフードのバイトしてたんだけど、親父が死んでから辞めた。

 高校を卒業したら、家を出たかったんだ。

 その資金稼ぎのバイトだった。

 家を出たいなんて言える状況じゃなくなったしね……


 親父が死んでから、精神状態が不安定な母親を一人にしておけなかった。


 俺より5つ下の弟も居たから、余計、俺がしっかりしないとという、プレッシャーも背負った。

 ずっと、親父の遺影を見て、泣いたり、笑ったりを繰り返す母親。
仕事や家事が出来る状態じゃなかった。


 『親父も楽になったと思うよ。

 飲んで荒れてだらしない姿を、母さんにずっと見せている事の方がずっと辛かったはずだよ……
 だから、元気出そう。
なぁ、母さん』

 不憫な母親の背中を見る度、そう言葉を掛けて楽にしてやりたかったけど、親父への罪悪感でその言葉は押し殺してしまった。


 そんな重苦しい毎日の中で、唯一、俺の息抜きが、バッティングセンターでむしゃくしゃした気持ちをバットにぶつける事だった。

 かなり優秀な野球少年だった俺は、どんなボールが飛んできても打ち返していた。


 その横で、スーツ姿で空振りばかりをかます、場違いな女が居た。


 ーーそれが百合ーー