溺れる恋は藁をも掴む

 どうして、こんなにも神経を擦り減らしてまで、親父は転職もせずに、あの会社で自らを壊しながらも働いていたのか?

 家族まで巻き込み、家庭を犠牲にしてまで、
何を守ろうとしていたのか?

 それは後々になってから知る事になった。



 苦しくても辛くても逃げずにそこに居た理由が……


 そして、行き場のない怒りを母にぶつけてしまっていたのに、気づけないほど追い込まれてまで……

 決して、暴力は振らなかったけど、言葉の暴力も十分人を傷つけてしまう。



 親父は俺の反面教師でありたい。



 姿形が似ているのなら、せめて、あの忌々しい性格は別物なんだと自分に言い聞かせていた。



 酒を飲んで、思い通りにならない事を、八つ当たりして、関係のない人まで巻き込み、心を壊してゆく……


 鬼の形相になるまで、心が荒むなんて哀しいよ。




 だから、俺は笑う。
笑っていたんだ。




 あの空気が大嫌いだから!


 笑っていたら、通り過ぎてゆくから。
母さんをこれ以上悲しませたくないから。

 そう、空気は人が作るんだ。

 機嫌次第で、たちまち暗黒の空にだって変えてしまうのが怖いんだ。


 誰だって、陽だまりのような穏やかな日々を望んでいるのに……


 ーー不器用だよなーー