溺れる恋は藁をも掴む

 酒を飲まない時の親父は、比較的おとなしい男だった。

 たまに取引先の洋菓子店のケーキをお土産に買ってきたり、休みの日は半日は寝ているが、残りの半日は、母さんの買い物に付き合ったり、柊の遊び相手をしたり、外食に連れて行ってくれたり、俺のキャツチボールの相手もしてくれた。

 長い休みに入れば、必ず旅行にも連れて行ってくれていた。


 亭主関白で、躾には厳しい男でもあったが、
酒を飲んで機嫌を損ねなければ、どこにでも居る普通のお父さんって感じだった。

 俺はよく親父に似てると言われた。
姿形が子供の頃の親父にそっくりらしい……


 言われる度、酒を飲んで罵倒する鬼の形相の親父を思い出し、嫌な気持ちになった。

 ーー俺は親父とは違う!!ってーー

 弱い者に対して、あんなに攻撃的な男と一緒にしないでくれ!!



 俺たち家族は、なるべく、親父の地雷を踏まないように、穏やかに暮らしていく事が暗黙の了解のようになっていった。