溺れる恋は藁をも掴む

 親父が居ない時の母さんは、比較的リラックスしていた。

 それに、俺や柊をうんと甘やかした。

 基本、親父の休みは土日。
営業職になってからは土日関係なく、取引先の依頼があれば出掛けるようになった。
大抵、夕方まで帰ってこない。

 そんな時は、「あっくん、お昼にしゅうちゃん散歩させながら、ハンバーガー食べよう!」と言って誘う。



 家計のやりくりをしながら、そんな時間を母さんは作ってくれた。


 ファーストフードで、好きなハンバーガーのセットを頼み、ベビーカーで眠る柊を傍に置いて母さんと食べるハンバーガーは美味かった。

 俺の友達の話や幼稚園での話、好きな遊びなどを母さんに話した。
母さんは、『うんうん』と相槌しながら、笑顔で聞いてくれていた。


 こんな優しい時間が幸せに思えた。


 「お父さんには内緒ね!
お父さん、ファーストフード嫌いでしょ?
 でも、ママは時々食べたくなるの」

 そう言って、ハンバーガーを食べる母さんも、穏やかな顔をしていた。


 俺が高校の時に、ファーストフードでバイトしたのは、ファーストフードが嫌いな親父への反抗心からなのかな……?


 あの頃の厳しい環境の中での優しい思い出が、そうさせていたのか?


 いや、ただ単に金欲しさで働いていたのかもしれないな。


 でも、一つだけ言える事は、そんな時間がやつれた母さんに優しい笑顔を戻してくれていたんだ。

 バイトしながらも、その頃の事はよく思い出していたよ。