「かな、大丈夫か?」
さっきまで進藤先生の座っていた椅子に幸治さんが座る。
「大丈夫な訳、
ないよ。」
幸治さんの顔を見ないで答える。
「どうして・・・・・・。」
「ん?」
「どうして、幸治さんは教えてくれなかったの?」
「何を?」
「石川先生のこと・・・・・・
手術のこと。」
「それか。
親父からその話を聞いたのは、俺達の結婚式で帰国した時だ。」
え?そんな前に。
「親父はかなの心臓を手術した時から、そう考えていたらしい。
この先ずっとかなの心臓がもつとは思ってなかったみたいだ。」
そんな・・・・・・。お父さんが手術してくれたのに。
「前の手術では、かなの体力を見ても移植は厳しくて。
それに、手術前の検査結果での心臓の状態を見ても、移植まではいかないだろうって判断してた。
けど、実際手術してみると、心臓の大きさはかなり小さく、弱っていることも分かったんだ。」
「そんな・・・・・・、
だって手術は成功したんじゃ!?」
「成功は成功だけど、その手術で心臓が強くなったわけではないんだ。
あの時の症状は治った。あのままいけば完治ということになるはずだった。
あれから、違う心臓病になったことで、今の心臓ではかなの体は耐え切れなくなってるんだ・・・・・・。」
「なんでよ!
お父さんは世界的に有名な医者でしょ!?
どうして?」
お父さんは決して悪くない。幸治さんだって。
それなのに、誰かに当たりたい気持ちはおさまらなかった。
「そうだ。親父は世界的にも有名な心臓外科医で小児科医でもあって、研究者でもある人だ。
だけどな、かな。
親父も人間だ。
神じゃない。
全ての病気を治せる訳ではないんだよ。
医者のお前ならわかるだろ?」
「そんなのわかんないよ!」
分かってるけど、分かりたくない。
そんな気持ちから、言葉が出た。
「あんなに痛い思いして手術受けたのに・・・・・・、
あれは無駄だったのよ!」
「そんなことない!
そんなことを言うな!」
私の言葉で幸治さんを怒らせてしまった。
「かな・・・・・・、お前だって医者でありながら人間だ。
その証拠に、自分の体のことを隠したり、薬だってまともに飲まない。
医師なら食事をとることの大切さだって分かってるだろ?
なのに、どうして?
それは人間だからだろ?医者である前に。」
それ以上、言葉が出てこなかった。
代わりに大粒の涙がパジャマにこぼれ落ちた。



