樫の木の恋(上)



城主になるというのはやはり大変な事のようで、朝廷での仕事やら戦に備えての準備、資金集めに年貢や諸役の管理。町の事など秀吉殿は多忙を極めていた。

自分もそれの手伝いに忙しく、二、三日城を空けることなどざらで秀吉殿と一緒に過ごす時間が全く無い。会えても口付けを交わす程度で、すぐにお互い仕事に取りかかってしまう。

その間に秀吉殿は石田三成を配下に加えた。
武骨者の多い配下の中で三成は異彩を放っていた。彼は戦には向かないだろうが、内政を任せられると秀吉殿は嬉しそうに語っていたのだった。

確かに優秀そうで出来る男だろう。
しかし自分にとっては要警戒といった男だった。
つい先日の話。

「竹中殿は殿の妾、と言ったところでしょうか?」

殿と呼ばれているのは勿論秀吉殿だ。城主になったのだからそういう呼ばれ方をされるようになる。

「まぁそんなところか。男の場合妾というのは少し違うと思うがな。」

「軍師であり、殿の妾…か。」

話しかけるというより、呟くように口にする三成。この男は笑わない。笑っているところを見たことはない。
少し不気味な存在感を放っている。

「殿は可愛らしいお方ですね。」

「いきなり、どうした?」

「いえ、最近殿とお仕事をさせて頂く事が多くて。顔を赤くするところなど、食べてしまいたいくらいです。」

「…!?」

いきなり目の前が真っ白になる感覚に陥る。秀吉殿が、そのような反応をする…など。気を張られている時は、あのお方は絶対にそのような反応などしない。
ということは、三成には心を許しているということか。

「余裕がないのですね。」

その時初めて三成が笑うところを見た。笑うというよりも口角を上げ、悪意のこもった笑い方だったが。
そうして去っていった三成。

しばらく立ち尽くしてしまった。