大殿の部屋を出て最初の角を曲がると秀吉殿が壁に寄りかかりながら腕を組み立っていた。
「…ずっと居たのですか?」
「さぁな。」
秀吉殿は冷たく答えながらも不安気な眼差しを向けてくる。恐らく何を話したのか分かっているのだろう。
「大殿から聞いたのだろ?…幻滅したか…?」
そんなことを考えていたのかと思いながら、壁に寄りかかる秀吉殿の顔の横に手を置く。
「幻滅などしませんよ。ただ…」
「ただ…?」
何を言われるのか不安気にしている秀吉殿のおでこにおでこをつける。既に壁に寄りかかっていた秀吉殿は逃げられもせずにただ顔を赤くしている。
「秀吉殿を傷つけた奴が許せないだけです…。」
口付けをすると秀吉殿は可愛らしく顔を赤くし、目を潤ませる。
「秀吉殿……好きです。」
「は、早く行かんと…!」
逃さないように両腕で塞ぐ。
「秀吉殿。辛くはないですか?」
「……え?」
「思い出して辛くなったりしませんか…?」
今まで照れていた秀吉殿の顔は真顔へと早変りし、少したけ目を逸らしながらぽつぽつと答える。
「もう…平気じゃ。」
「それがしには強がらないで下さい。」
すると、きっと顔を引き締めた秀吉殿はそれがしの胸を押して退かす。
「強がってなどいない。早く、横山城へと向かうぞ。」
そうやって話すときは秀吉殿が何かを隠す時。恐らく己の気持ちを知られたくないのだろう。
それ以上は深く聞けずに秀吉殿の後をついていった。

