今川家。
徳川殿と秀吉殿がかつて仕えていたところだ。
織田家は今川家と桶狭間の戦いをしている。その際に東海一の弓取りとまで呼ばれた当主、今川義元を討っている。
徳川殿は桶狭間の戦いの後に弱体化した今川家の支配下から独立し大名となっている。
秀吉殿は今川家に小姓として仕えていたと聞いている。
そこから出て織田家に拾ってもらったのだと。
「わしは秀吉が小姓として今川家に仕えている頃から知っておる。あいつは昔から優秀でな。小姓の中では一番に仕事が出来ると今川家の家臣に一目置かれていた。女だと明かしてはいたが、美人じゃったし気に入られておったな。」
そういえば徳川殿も秀吉殿が家臣に欲しかったと言っていた。
「秀吉とは初めて今川家に話し合いしに行った際に、義元が自慢しておったんじゃ。秀吉は美人じゃから。」
「…義元のお気に入りだったんですか。」
「まぁな。」
きっと秀吉殿は嫌なことも辛いことも全て呑み込んで生きてきたのだろうな。恐らく体を要求されることもあったんじゃないだろうか。
「何度か会ったが、秀吉は義元に早くから見切りをつけており、織田家に入りたがっていた。じゃから秀吉はわしに近づいてきたんじゃ。才能もあったし、秀吉を引き込もうと思っておった。」
秀吉殿は大殿の才能に惚れたのだろうな。そんな気がしていた。
「しかし今川の息子の氏真の怒りをかって、秀吉は捕らえられてしまった。」
「怒り…ですか?」
細心の注意を払う秀吉殿が、目上の人の怒りをかうような事などをするのだろうか。
「噂によると氏真が結婚を迫って断られたから、だとか。それで秀吉は捕らえられ、拷問されていた。」
ただそれだけで秀吉殿は捕らえられたのか。酷い話だ。
「…もしや秀吉殿の背中の傷は…」
「さぁな。秀吉はその時の事は一切話さん。しかしそこで何かしらあったのは確かじゃろうな。」
拷問…。この世の中拷問をし情報を得る事などよくあることだ。罰を与えるために手酷くやる場合も多い。
現に織田家でも敵の情報を得るため拷問はやるし、それにより死んでしまう場合もある。
確かにあの傷は鞭のような物で叩かれた後や、細かく切り刻まれた後が多かった。

