「半兵衛、少し残れ。話がある。」
二人で大殿の部屋から出ようとすると自分だけ大殿に呼び止められた。秀吉殿は気を使ったのか他にも行かなければならないからと去っていった。
障子を後ろ手に締め、大殿に促されるまま腰を下ろす。
「その様子だと聞きたいことがあるじゃろう?」
大殿はとても鋭いお方だ。恐らく分かっているのだろう。しかし気になる気持ちと聞きたくもないという感情がひしめき合っていた。
だが、自分の一時の嫉妬心から秀吉殿の事を知れなくなるのはもっと嫌だと思い口を開いた。
「胸を触りましたら嫌がられてしまいまして…。その…大殿との…時は…」
やはり口に出すのは抵抗がある。出来れば秀吉殿とのことは胸にしまっておきたいのに。
「嫌なもんじゃの…。やはり秀吉を手放すもんではなかったな。」
苦笑いをしながらも大殿は話の続きをする。
「わしの時も駄目じゃった。徐々に慣らして触れる範囲は増えてはいったがな。まぁ秀吉はそれだけでも楽しめるからそれ以上の事はしとらんよ。」
「そう…だったのですか…。」
そういえば前に、大殿と男女の関係になったのでしょう?と聞いたとき、違うと必死に否定していたな。
あれは本当の事だったのか、と今更ながらに思う。
「何か…あったのでしょうか…。」
「……秀吉は一時今川家にいたのは知っておろう?」
大殿の言葉に小さく頷く。

