女中…というか、初様と別れ大殿の部屋へと向かう。道中上機嫌で歩いていた秀吉殿だったがさすがに大殿の部屋の前に来ると難しい顔をしていた。
「大殿…秀吉と半兵衛にございます。」
「入れ。」
待っていたかのように即座に返事が来る。秀吉殿はゆっくりと障子を開け部屋の奥にいる大殿を見据える。
「その様子からすると昨夜は共にいたのだろう?」
「そ、そんなこと」
「嘘をつくな。顔にかいてあるぞ?」
大殿のからかいに秀吉殿は咄嗟に顔を隠す。にやにやと笑っている大殿はそれを見てやはりという顔になった。
「まぁ良い。荷物はもう大丈夫なのか。」
「はい。半兵衛もそれがしも荷物は元々少ないので。」
「そうか。そういえば半兵衛も城に住むのじゃろう?まぁそちらの方がわしとしても安心じゃが。」
「ええ、半兵衛も一緒に住みます。」
本来なら秀吉殿のみが城に住み、自分は城の外の武家屋敷に住むのが普通。
しかし秀吉殿は家族もいないし、いくら使用人がいくらか住み込みでいるとしても、やはり女と公言した以上女一人というのは危ないだろうと言うことで昨夜共に城に住むことを決めた。
「まぁ秀吉の事じゃから心配はしとらんが、あまり半兵衛にうつつを抜かすでないぞ。」
「はい。」
「ましてや朝まで床に忙しくして、城の事が疎かにするでないぞ。」
床…というのは、この場合男女の関係を指す。
「そ、そのようなことあるわけないではありませぬか!」
「若い二人じゃからのぉ。無いとは言い切れんなぁ。」
大殿はにやにやとしながら顔を赤くする秀吉殿を見つめる。そういえば昨夜途中で中断したのだが、大殿とは大丈夫だったのだろうか。
だが大殿との床の話など聞きたくもない。
しかし…胸にわだかまりがあるのは否めなかった。

