樫の木の恋(上)




そう言いながら笑うと、女中は何を思ったのかいきなり抱きついてきたのだった。
秀吉殿は驚いて後ろを振り返り、秀吉殿と話していた女中も口に手を当てている。

「半兵衛様…私の気持ちはお気付きですよね?」

「…離れてくれんか。」

「半兵衛様、好きにございます。」

「すまない…気持ちには答えられん。」

引き離そうとするがさすがに無理矢理に離すことなど出来ず、困り果てていた。その時秀吉殿がにこやかにしかし圧迫感を持って口を開いた。

「必死な女子じゃのぉ。」

「なっ!」

女中はその一言でばっと離れ、怒りを露にし顔を赤くしていた。秀吉殿を睨んでいるようにも見える。

「だってそうじゃろう?半兵衛に抱きついて困らせてまで。」

「私はそんな…つもりでは…!」

「半兵衛にはその気は無いのじゃ。潔く諦めたらどうじゃ?」

そう秀吉殿が口角を上げ小馬鹿にしたように笑うと、女中はいきなり秀吉殿の頬を手で叩いた。
一瞬のことで止められなかった。

「農民の出の分際で!どうせ家臣の方々の妾にでもなるために武士になったのじゃろう!?」

女中の怒りは収まらず、酷い言葉まで秀吉殿に投げ掛ける。しかし秀吉殿は叩かれるのも罵倒されるのも折り込み済みだったのか、悠々と腕を組みにこやかに構えていた。

「そなたは素直じゃのぉ。半兵衛の前で己の本性を晒すとは。まぁあまり褒められた本性ではなかったようじゃが。それでは半兵衛に嫌われてしまうぞ?」

「あっ…ち、違います半兵衛様!い、今のは…!」

慌ててこちらへと向き今度は青い顔をしながら弁解をしようとする。しかし秀吉殿に手を上げ、酷い罵倒までした時点で許す気などなかった。

「愛してやまない秀吉殿に手を上げ、ましてやそのような酷い言葉で罵倒するような奴をどう許せば良いというのだろうか。」

「は、半兵衛様…これは秀吉様が!」

「頼む。もう顔も見たくない。」

そう言うと涙を流しながら走ってどこかへと去っていった。途中鬼の形相で秀吉殿を睨み付けているのを見ると、女子という生き物は怖いなと思ってしまう。