樫の木の恋(上)



横山城に行くにあたって大殿に挨拶をしに朝一に城へと向かっていた。昨夜女だと明かしたばかりだからか、通りすがる家臣の方々に声をかけられていた。

「それにしても秀吉殿が女子とは驚きました。どうです?それがしの妻にでも…。」

「あはは!ご冗談を!それがしは半兵衛がおります。」

「そうか…残念じゃのぉ。」

少しひきつった笑顔で去っていく。秀吉殿は冷たい目をしながら怒ったように呟く。というより、秀吉殿は怒っていた。

「要はあれじゃろ?わしとくっつけば城がそのまま手に入るとでも思ってるんじゃろ?」

「まぁそれもあるでしょうね…。」

「ふんっ!それしかないわ。なんと浅はかな!」

恐らく織田家のため、とか大殿のためにという考えを持たない方々に怒っているのだ。自らの名誉のために楽な手でのしあがろうという考えが解せないのだろう。

しかし秀吉殿が美人だから…という理由も多分にあるのだろうな。

しばらく歩いていると秀吉殿に片想いしていた女中が、秀吉殿を見つけ走って寄ってくる。

「秀吉様…女子…なのですか?」

「ああ、隠していてすまなかった。この間の口付けも悪かったな。」

女中は悲しそうに下を向く。

「とても…女子には見えませぬ…。」

「ははっまぁ懸命に隠しておったからの。」

「そうですか…。」

秀吉殿が謝りながら慰めるように優しく話している後ろから、この間それがしに話しかけてきた女中がふっと表れ話しかけてくる。
いつの間にいたのだろうか、全然気付かなかった。

「半兵衛様には意中の方がいらっしゃったのですね。予想外でしたが…。」

ちらっと秀吉殿を見ている目が少し睨むように見えた。
秀吉殿が後ろを向いているからなのか、すっと近づいてくる。

「しばらくお会い出来ないと思うと寂しゅうございます。」

「そう言われてもな…。」

「半兵衛様。秀吉様では大変ですよ…?」

「ふっ別に構わない。」