「それにしても!」
秀吉殿は勢いよくこちらへと向き、大きな声を出す。
「阿呆か半兵衛は!いきなり何の話しもせずに女だと明かすし、皆の前で口付けするし!」
「秀吉殿が可愛らしいのがいけないのです。」
「なっ……!」
澄まして言うと秀吉殿が真っ赤に顔を染めながら可愛らしく睨んでくる。もう一度抱き締めたくもなるが、さすかに大殿の前なのだから家に帰ってからにしよう。
「た、たく半兵衛は…!後で説教だからな!」
「では、それがしの部屋にて…」
「居間で!だ!」
ふんっとばかりに後ろを向き、大殿を見据える。
「なんじゃ何か言いたげじゃなぁ?秀吉。」
「ええ…お時間いただけますでしょうか。」
「仕方ないのぉ。今からなら構わん。わしの部屋にくるがいい。」
面白そうに笑った大殿は部屋をすっと出ていく。全員何も言えず飲み食いもせず固まっているのを横目に、秀吉殿に腕を掴まれた。
「半兵衛もついてこい。」
そう掴まれながら廊下に出て、大殿の部屋の方へと向かう。大殿は蝋燭と月明かりで割りと明るいところで既に 待っていたのだった。
「まぁ座れ。」
大殿の前に座り、秀吉殿は神妙な面持ちで口を開いた。
「大殿…私と大殿との関係は…」
不安という言葉そのものにでもなったかのように、秀吉殿の表情は揺らいでいた。
「終わりじゃろうな。」
「…!」
秀吉殿はわかっていた答えを聞いてからゆっくりと意を決したように口を開いた。
「半兵衛に心が揺らいでいた頃からこうなるような気はしていました。」
「わしも悪かったな。いつまでも縛り付けてしまった。」
「いえ…自分でも気づいておりました。それがしが大殿を思う気持ちは恩から来るものだと。しかし、これだけは言わせてください。それがしはこの想いが恩からなるものだとしても、大殿が好きにございます。」
「ああ。」
「ですから、これは餞別になります。」
そう言って、秀吉殿はゆっくりと大殿に近づいた。大殿は何をするのだろうと首を傾げていたが、次の瞬間目を見開き驚きを隠せないでいた。
秀吉殿は自分の目の前で大殿に口付けをしたのだった。
深く、愛を確かめ会うように。
その二人の美しさに腹が立つ以前に魅いってしまった。
「秀吉…!半兵衛の前だというのに!」
「これで最後ですから。半兵衛には先程の仕置きを兼ねて…です。」
そう言ってすっと大殿から離れ、爽やかに美しく秀吉殿は笑った。

