樫の木の恋(上)



すると何を思ったのか秀吉殿は固まっている皆へと向き、いきなり着物の上を脱いだ。

「ひ、秀吉殿!何を!」

「言うよりこっちの方が分かるじゃろ。それにさらしを巻いてある問題無い。」

さらしを巻いてあるとはいえ、胸があるのは一目瞭然。
一瞬で女だと分かるだろう。皆は目を見開き秀吉殿を見ていた。

仕方の無いことなのだろうけど、それでも皆に見せたくないと思ってしまう。

「それがしは実は女なのです。」

そう張り詰めた空気の中に秀吉殿の言葉が落とされる。

「ひ、秀吉、本当…なのか?」

「本当にございます柴田殿。」

理解しきれないといわんばかりの柴田殿。まぁいきなり言われたところで理解出来ないだろうが。
口を開けたままの柴田殿など、もう二度と見られないのだろうな。

「あはは!まぁこうなるわな。」

突如として大殿の笑い声が聞こえる。この状況を見て確実に楽しんでいるようだった。

「大殿は知っていたのですか!」

いつも静かな丹羽殿もさすがに口出さずにはいられないようだった。

「ああ。織田家に入れる前から知っておったぞ。秀吉が武士になりたいというておったから、偉くなるまでは男として振る舞えと言ったのは、わしじゃからな。」

「な、何故女子を…」

どこからともなくそういった声が聞こえてくる。

「そうは言うが、秀吉は優秀じゃろうよ。女子にしておくには勿体ない。批判をするというなら、わしが受けてたとうではないか。」

にやっと不敵に笑う大殿に、皆何も言えないでいた。
大殿に歯向かえる者など秀吉殿くらいしか見たことがない。反論など出来る訳もなかった。

「秀吉殿、いつまで着ないおつもりですか。」

後ろからふわっと秀吉殿の着物を着せる。秀吉殿はすんなりと袖に腕を通し、すっと着物を直した。

「は、半兵衛はいつから知っておったのじゃ?」

柴田殿がいまだに信じられないと言わんばかりの目をしている。このお人は武人で凄いお方ではあるが、少々頭が固い。突拍子もないことに、頭がついていけないのだ。

「初めてお会いしたその日に気づきました。まぁ問いただしてようやくといった感じでしたが。」

「そうか…。いや驚いた。秀吉が女子だとは思わなかった。気は強いし、戦わせても強いからな。」

柴田殿は感心しながら話している。実感が沸かないのだろうが、秀吉殿の体を見たのだ納得しないわけにもいかないといった感じだろうか。