「秀吉殿!」
宴会場へと入り大声で秀吉殿を呼ぶと、他の家臣達の目が一斉にこちらへと向けられた。
その目を受け止めながら、可愛らしくこちらを見る秀吉殿を発見し目の前までつかつかと歩いていった。
「な、なんじゃ半兵衛?」
こちらの剣幕に圧されたのか、秀吉殿が何事かと立ち上がる。一瞬連れ去ってしまおうかと頭をよぎったが、先程最後に大殿が言った言葉を思い出した。
そして自分のものだと誇示したかったのだろう。
そっと秀吉殿をその場で抱き締めた。
そもそも我慢がきかなかった。
「なっ!は、半兵衛!?やめんか!血迷ったか!」
秀吉殿の声と共に周りからの驚きの声が聞こえる。それと同時に囃し立てる声が聞こえていた。
「秀吉殿、好きです。」
「な、何を!わ、わしは男で…」
「もうそれは良いと大殿が言われておりました。そろそろ女だと明かしても良いのでは、と。」
必死に逃げようとする秀吉殿をぎゅっと抱き締める。いつもいつもこのお方は逃れようとする。だが、そのうち諦めるのだ。
「し、しかし!」
「良いではありませぬか。」
秀吉殿は予想外過ぎる出来事についていけてないのが分かった。慌てふためく秀吉殿の顎をすっと持ち上げ、逃げられないように腰を固定し口付けをする。
周りのざわめきが一瞬にして静まり返る。それだけ強烈な出来事なのだろう。
口付けをし終わると秀吉殿も皆も固まっていた。
そっと結ってあった秀吉殿の髪を外して、女子のように整える。
そうしてからもう一度固まる秀吉殿の顔を見つめる。
「秀吉殿。好きです。」
そう言ってから口付けをした。
大殿の顔など思い浮かばない程、甘美なその口付けは手放しがたい。
秀吉殿はようやく事態を受け止め、口付けを受け入れてくれた。
口付けを終えると、皆が固まっているのが見える。
しかし離したくなくて、ずっと抱き締めていると秀吉殿が静かに口を開いた。
「半兵衛…分かったから。一度離れてくれんか。」
「嫌です。それがしも横山城へと連れていってくれなければ離れませぬ。」
秀吉殿は返答に苦笑し、だが少し嬉しそうでもあった。
「まったく……半兵衛は強情じゃのぉ。仕方あるまい。連れていこう。」
秀吉殿の答えを聞いてからゆっくりと体を離す。離したくなくて思わず腕を掴んでしまうがゆっくりと離された。

