「なんじゃ。」
大殿は厳しい目をこちらに向けてくる。恐らく何を言いたいのか分かっているのだろう。しかし強めにそう聞いてきたのは、これから言われる事に対しての嫌悪感かもしれない。
「…秀吉殿についていかせてくだされ。」
大殿は少し呆れた顔をしながら、空いてる部屋に入るよう促す。大殿は部屋にはいると月明かりで照らされる城下町を眺めていた。
「半兵衛。お主はわしと秀吉の関係を知っておるのだろう?」
「………えぇ。知っております。」
「わしにとっては、お主と秀吉が離れるのは喜ばしいことじゃ。そんなわしに頼んでも首を縦に振るわけなかろうて。」
もっともな話だった。大殿にはとても良いことなのだ。
やはり無理な話なのだ。今更覆せる訳がないのか。
血迷っていた自分に嫌気がさしてくる。
「女子に左右されるようでは、秀吉はお主を選ばんじゃろうよ。わしから奪うつもりでないとな。」
「…そのようなこと…。」
「ふん!半兵衛が秀吉を好いていることくらい初めから分かっておったわ。」
苛立っているように見える大殿は、何故か優しい目をしていたのだった。

