その後ふらふらと城へと向かい、宴会場へと向かった。
正直出たくなどなかったが、そういうわけにもいかない。
「いやぁ秀吉。出世したのぉ!」
柴田殿が大きく手を叩き祝っている。それを定まらない焦点を駆使しながら眺めていた。
「ありがとうございまする。これも柴田殿のご指導の賜物…。」
「よく言うわ!秀吉に何かを教えたことなど記憶にないぞ。お主は要領がいいからのぉ。」
「そんなことありませぬよ。この間もそれがしを庇おうとしてくれたではありませぬか。」
「あれはわしも肝を冷やしたぞ。大殿に噛みつくんじゃからなぁ。あのような口を利いてよく無事でおったな。」
秀吉殿が楽しそうに柴田殿と笑っている。丹羽殿なども自分の城からわざわざ来てくれていた。明智殿は来てはいなかったが。
自分はようやく気づいていた。秀吉殿が自分のなかでどれほど大きな存在になっていたかを。
秀吉殿が皆のなかにいるのに、秀吉殿しか見えなくなっていた。
ここでついていかなければ、秀吉殿とは今後戦いの場でしか会えなくなる。
しかし2万の兵で18城落とすようなお方だ。
そもそも援軍など頼ないのかもしれない。そうすると一年に一度会えるか会えないかになってしまう。
「…半兵衛殿!半兵衛殿!」
気づいたら目の前で正勝殿が手を降っている。
「あ、あぁ。なんです?正勝殿。」
「いやぁ珍しいですなぁ。半兵衛殿がぼーっとしておるなんて。」
「いや少し考え事を…。」
正勝殿はまだ聞かされていないのか、自分も共に横山城に行くのだと思っている。
ふと、秀吉殿と目があった。秀吉殿は少し寂しそうに小さく笑った。
何故そのような顔をするのだろう?
少しでも寂しそうにされたら、今この状況が全部嘘なのだと思いたくなる。
だんだん納得がいかなくなって、大殿の元へと歩いた。
そして、小さく大殿に用がありますと申し出ると共に宴会場から出てくれたのだった。

