「いい機会じゃと思う。」
「何が…です?」
嫌な予感が頭をよぎる。秀吉殿がこれから口にするかもしれない言葉を聞きたくなかった。
「私について横山城に行く面々から半兵衛を外してもらった。元々半兵衛は優秀じゃから大殿が直臣に欲しがっていた。大殿の元で色々と学べ。」
目の前が真っ暗になってしまう程、絶望に包まれる。
「嫌にございます!!それがしは秀吉殿の元がいいのです!それがしは秀吉殿が好きなのです!」
秀吉殿は小さくため息をつき、そしてふんわりと笑った。
「半兵衛。もう決まったことじゃ。それに離れていれば、すぐに忘れられる。」
そういう秀吉殿を抱き締める。捕まえておかないとどこかに行ってしまう。
「それがしは…秀吉殿を忘れられるなど、出来ませぬ。」
「離せ半兵衛。そう思うのは今だけじゃ。」
「それがしは秀吉殿を守りたいのです。そのためなら死んでも構いませぬ。」
秀吉殿は腕で体を静かに離し、首を横に振る。どこまでも優しく、どこまでも切なく秀吉殿は笑った。
「半兵衛程優秀な武士が私を守って死ぬなどあってはならん。それにわしに仕えるよりも大殿に仕えた方が出世も出来る。」
そう言って振り払うように居間を出ていってしまった。

