樫の木の恋(上)



朝になり横山城へと向かう。徳川殿達は既に横山城を包囲していた。それに合流し、布陣をはった。
横山城はそれを見たのかすぐに投降し、あっさりと横山城は落ちたのだった。
やはり小谷城まで行かなかったのが良かったのだろう。

浅井家の被害は甚大で重臣の遠藤直経、長政の実の弟浅井政之などの諸将が亡くなった。
朝倉家も真柄直隆、真柄直澄などが討ち死にしたらしい。
浅井家も朝倉家も余力なく、いつでも潰せるくらいにまで弱体化が出来たので後日潰すことになった。

これが野田の戦い。

徳川殿は姉川の戦い…とも呼んでいたが。



「秀吉。横山城の城主に任命する。」

「ははっ!」

城に帰ってから次の日、木下殿は大殿に呼ばれ城主に任命された。

木下殿の配下である自分と正勝殿、堀尾吉晴この三人がついていくことになった。
この際だからと、木下殿は姓を柴田殿と丹羽殿から一文字ずつとった羽柴に変えたのだった。

「半兵衛、明日には岐阜城をたつ。」

「はい。それにしても羽柴殿と呼ぶのはなかなか慣れませんね。」

久々に家で二人朝からゆっくりしていた。今日の夜には羽柴殿の城主任命祝いが開かれる。
大殿もということなので、城で行われる手筈になっていた。

「ならば、下の名で呼べばよいではないか。もう変えることも無いしの。」

そうさらっと言われた。ふと、気になった。一応女子なのだ、女子としての名前もあるのだろうか。

「秀吉殿は女子としての名前はあるのですか?」

秀吉殿はそう言われて少し驚いたようだったが、すぐに腕を組み悩んでいる。

「うーむ。女子としての名か…。あったような気もするが、覚えとらんな。」

そんな話をしていると、不意に秀吉殿が向き合う形に座るよう促された。少し堅い雰囲気の秀吉殿に少し不安になる。
この間から何度かあるあの胸がざわつくような感覚が全身を襲ってくる。