「大殿が浅井家を潰すまで追い掛けると申しておりました!」
「分かった。下がって良い。」
小者が伝達にきてから、木下殿は少し顔をしかめた。
「大殿はやはり浅井長政が離反したことを怒っているな。妹のお市の方まで差し出したのだから仕方のない事だが…。」
「このまま小谷城まで攻めるのでしょうか。」
「いや…それは無理じゃ。こちらも被害が大きい。さすがに城攻めまでは出来ん。」
冷静にそう告げるように答える木下殿。しかし、大殿は長く浅井家を追いかけたのだった。
「大殿!無理にございます!この兵力では小谷城までは持ちませぬ!」
「うるさいわ!黙っとれ秀吉!」
日中ずっと浅井家を追いかけながら村に火を放ったりしていた。ようやく真夜中に兵を休ませた大殿に木下殿が噛みついていた。
「やめんか秀吉。少し落ち着け。」
柴田殿が木下殿をいなしている。しかし木下殿はそれでも収まらず、大殿に再び噛みついていた。
「秀吉。下がれ。」
「撤退すると決めてくださるまで下がりませぬ!」
「秀吉…それ以上わしの言うことを聞かんというのなら、わしにも考えがある。」
大殿がぎらっと睨み木下殿を脅す。それを見た柴田殿は大慌てで木下殿を庇おうとする。しかし木下殿は一歩も引こうとはせず、大殿を睨み返した。
「す、すみませぬ大殿!ほら、秀吉お前も謝れ!」
「それがしを脅すと言うのですか。それならそれで構いませぬ。しかしこのまま浅井家を追えば小谷城も攻め落とせず、今包囲している横山城も我々が今の兵力で帰らなければ投降しないでしょう。」
「秀吉…構わんというのか?」
「構いませぬ!私情に流され大局を見れないようなお方ではないはず。大殿!お聞き入れくだされ!」
柴田殿が木下殿の腕を引っ張りながら下げようとする。しかし柴田殿程の力で動かそうとしても、木下殿は頑として動かなかった。
木下殿の言葉を聞いてから、大殿は長くため息をつきもう一度木下殿を見てから言葉を口にした。
「はぁ……。たくっ秀吉は強情じゃのぉ。わしにたて突くような奴はお主しかおらんな。わしが悪かった、撤退しよう…。」
「大殿!ありがとうございまする!」
一気に撤退の旨は兵たちに伝えられた。木下殿についてきていた自分は大殿が木下殿を呼び止めるのを見た。
「秀吉…戦いが終わったら覚えていろよ。」
「何をされるおつもりで…?」
あれだけの口を聞いたのだ。それ相応の覚悟をした顔で大殿を見る木下殿。
「ふんっそうじゃのぉ。まぁ一夜じゃきかんな。三日程好きにさせてもらおうかのぉ。」
「なっ!」
含みのある顔をしながら笑う大殿。それ相応の処罰をされると思っていた木下殿は反動でなのか顔が赤く染まっている。
それを見てただひたすらもやもやしていた。

