「それがしも……苦しいです。」
木下殿の香りがして、どうしても離したくなくなってしまう。
「半兵衛…?」
なかなか離さない自分に、疑問を抱いたのか木下殿が心配そうに聞いてくる。
「すみません…でも、今離したらまた冷たい木下殿に戻ってしまいそうで…。」
思わず強めに抱き締めてしまう。だが木下殿は抱き締め返してくれた。
「私には半兵衛に冷たくすることは出来ん…。一度やってよう分かった。じゃから心配せんでも…」
「そういえば木下殿。」
木下殿の言葉を遮ると、木下殿は不思議そうに己よりも上にあるこちらの顔を見つめてくる。
「なんじゃ…?」
目を少し潤ませ心配そうにこちらを見つめる木下殿に、少し意地悪をしたくなっていた。もっと可愛い顔が見たくなってしまった。
「木下殿は、案外胸が大きいのですね…。」
「なっ!」
血の気がないのにも関わらず、頬を赤らめ涙目になる木下殿の顔は可愛らしく、いじらしい。
「はっ半兵衛の馬鹿!変態!」
腕の中で顔を赤くし悪態をつく木下殿。自分の腕から逃れようともがいているが、強く抱き締め逃がさない。
「は、離せ!変態!」
「酷いですなぁ。それがしは褒めたのですが…。」
「うるさいっ。半兵衛などもう知らんっ。」
そのうち逃れられないと諦めたのか、大人しくなりながらも腕の中でそっぽを向く木下殿。このお方はどこまでも自分の心を掴んでくる。

