肩に布をあて、それから包帯を巻いていく。胸が見えぬように慎重に気を付けながら。
そういえば、と木下殿にどうしても聞きたい事があったのだった。
最近、避けられていたのだから。
「それにしても…最近木下殿は冷たいですよね。」
「えっ?そ、そうかのぉ?」
「最近木下殿はそれがしを避けておいででしたから。あの飲みの席のあと大殿に何か言われたのでしょう?」
「っ!それは……。」
木下殿が俯きながら、包帯を巻かれているのを眺めている。
「私は大殿のもの…じゃから。」
そう木下殿が小さく言葉にだし、それは酷く重いものだと感じる。大殿は織田家において絶対で、それが無能な頭ならばまだしも大殿は極めて頭が切れ優秀なお方だ。
木下殿の心が大殿にあると分かっているからこそ、大殿は木下殿に己のものだと言い、大殿という立場を利用しそれを遵守させようとしている。
ぬるりとした悪意につつまれてる蛇のようなお方。
木下殿はさながら蛇が好きな蛙といったところか。
「木下殿は…大殿が凄く好きなのですね。」
「……当たり前じゃ。大殿には数えきれない程の恩義がある。好きに決まっておろう。」
今の言葉に少しだけ疑問を持った。
今木下殿が口にした言葉には尊敬や恩といったものしか感じられなかった。好きという言葉にそういった思いは感じられても、男として恋愛としての好きが感じられなかったのだ。
「木下殿は男としての大殿のどういったところが好きなのです?」
「男としての…?そう…じゃなぁ優しいところ…とか。」
その言葉にも恋愛の色がなく疑問が確信に変わっていた。
大殿が嫉妬深くなっているのは、木下殿が大殿に向けている好意は尊敬や恩が大半だと気づいているから。
木下殿はそれが恋なのだと勘違いしている。
大殿はそれを利用し、ずっと手元に置いておこうとしているのだ。
少しだけ勝算が見えた。

