明智殿は大殿に呼ばれたので、家の戸を開けてくれてから去っていった。
木下殿を居間で降ろし、草履を脱がせ安静にしておくようにと言ってから包帯を取りに行き、ついでに水を汲んできた。
「あ……どうしましょう…。」
「ん…?どうした?」
部屋に戻ってきてから戸惑う自分を不思議そうに見つめる木下殿。
今ようやく気づいたのだ。
木下殿は肩を怪我してしまった。そしてその血は木下殿の体についてしまっているだろう。
だが、肩を怪我したことで木下殿は利き腕である右腕が使えない。そもそも片手では背中などどうやって拭けばいいというのだ。
「あ…その。傷口など拭かねばならないですよね…。」
「そりゃ半兵衛。血がついてしまっているからな。そのままだと汚いであろう?悪いものも入ってしまう。」
「ですよね…。ご自分で拭かれますか…?」
「いやぁなにぶん、腕が動かんくてな。出来れば、半兵衛に拭いて……。」
木下殿は今そこでようやく理解したのだろう。左手で顔を押さえている。
「う……しかし、自分では拭けんしのぉ……。」
独り言のように呟く木下殿。
お互い少し気不味いのと恥ずかしい雰囲気に気圧されていた。
無言の時がしばらく流れたが、木下殿が意を決してこちらを見てきた。
「半兵衛。拭いてくれ。」
「しかし!」
「自分ではしっかり拭けん。これから一度半兵衛が見てない時にサラシを取る。胸が拭けたら左手で胸を隠してから半兵衛は拭いてくれ。」
「分かりました…。では…。」
「ふ、振りかえるなよ!」
後ろを向いて木下殿がサラシを取るのを待つ。着衣が脱ぐ微かな音が木下殿が脱いでるのを想像させる。
「大丈夫だ…。」
振り替えると綺麗な体をした木下殿が胸を押さえている。しかし大量の血がこびりついて痛々しい限りだった。何度手拭いを洗っても血が多すぎて難しい。
「あ、あまり見るでない…。」
血の気が薄いから顔は赤くはならなかったが、恥ずかしがっている木下殿が何とも言えず可愛かった。
「痛かったら言ってくだされ。」

