「やめんか。」
いきなり辺りを殺気が覆っていた。
木下殿は勢いよく離れ、殺気の主の方へ顔を向ける。
それは大殿だった。
今まで黙って柴田殿の悪ふざけを見ていたが、さすがに自分との口付けに苛立ったのだろう。かなり機嫌が悪そうだった。
「無礼講…とは言ったが、少し羽目を外しすぎじゃろ。そんなに酔っていては、今城でも攻められでもしたらこの強固な岐阜城も瞬時に落とされてしまうな。」
「すみませぬ!つい…」
急いで謝る柴田殿と前田殿に冷酷な目を向ける大殿は、恐ろしいの一言だった。
「つい…のぉ。ついで、城でも落とされたら敵わん。今日はお開きじゃ。それと秀吉。少しついてまいれ。」
そう言って大広間を出ていった大殿。
「すまんな、秀吉。わしらの悪ふざけで怒られるじゃろうな…。今度何か詫びを入れさせてくれ。」
木下殿は柴田殿にそう言われ恐縮し、急いで大殿の後を追っていった。
木下殿の事が心配でついていきたかったが、木下殿が大丈夫と声には出さないが口を動かして去っていった。

