皆二人の言葉に大きく笑い、無事疑われもせず乗り切れたとほっと胸を撫で下ろした時だった。
柴田殿がまたもやとんでも無い事を言い放ったのだった。
「仲がええのぉ。そうじゃ秀吉。先程の口付け、半兵衛にもしてやれ。」
大人の悪ふざけ。まぁ確かに男同士の飲みの席ならばこういう事があったりする。柴田殿はそういうよくあることを言っているだけだ。
柴田殿は木下殿が女であることを知らない。微塵も疑っていない。
だから仕方の無い事だ。
しかし、やはりそれをするには抵抗がある。
飲みの席には大殿は勿論明智殿もいる。木下殿に想いを寄せる二人の前というのは、命がいくつあっても足りない。
だがそれを拒否してしまえば、この楽しい飲みの席の雰囲気を気まずいものにしてしまうだろう。
それに鋭い人間ならその二人の空気で、もしやと考えるものもいるやもしれん。
木下殿を見ると、柴田殿に少々嫌がる素振りを見せながらも渋々といった雰囲気を纏いながら笑いながら近づいてくる。
「……半兵衛、すまん。」
小さく自分にしか聞こえない声で詫びを入れてくる木下殿。
木下殿は肩膝を付き、先程女中にしたように顎を持ち上げられ口付けをされた。
だがそれは一瞬の事だった。すぐに離れた顔には申し訳ないと書いてあった。
「あっ!秀吉!男同士だからとそんな早く終わらせてはいかん!先程の口付けをしないか!」
茶化してくる前田殿に少し木下殿は苛立った色を見せたが、すぐにいつもの顔に戻る。
「前田殿は注文が多いのぉ。前田殿はそれがしが口付けをしているところをそんなに見たいのですなぁ。」
「あはは!半兵衛も秀吉も色男じゃからな!そんな二人が口付けしていれば、女子が騒がん訳なかろう?ほれ、いいからもう一回せい。」
前田殿が口にし、周りが囃し立てる。木下殿は仕方がなくもう一度顎を持ち上げ唇を落としてきた。
今度は先程よりも長く口付けをする。
前回口付けをしたのが明智殿との問題が起こった時。まさか三度目の口付けがこんな形になるとは思っていなかった。
そして、こんな時でも木下殿を離したくないと思ってしまう。

