しばらくすると二人は出てきた。
やはりいつものように木下殿の顔は不機嫌そのもので、それに相反して明智殿の顔は上機嫌だった。

その時小者がいつものように木下殿を呼びに来た。
小者が要件を告げてから去ると明智殿がにやっと笑う。

「大殿がお呼びだぞ。お気に入り…じゃもんな?まぁ今日は先に頂いてしまったが。」

「……ふん。悪い半兵衛。先に帰っていてくれ。」

そう静かに申し訳なさそうに言いながら去っていった。
その背中を少し切なくなりながら見ていると、明智殿が笑ってくる。

「ふふっ飼い主が行ってしまったな。寂しいのか?」

「……いえ、特に。」

「切なそうに見つめておるくせに。」

明智殿はやはり口角を上げながら見てくる。整った顔にその表情は様になっていて徐々に苛立ってくる。

「秀吉はいいな。野心があるうえに、どの家臣達よりも忠義に熱い。まぁだから苛めてやりたくなるが。」

苛める…はあれだが、前半の言葉に少々驚く。そんな風に木下殿を見ているとは思わなかった。

「大殿のお気に入りを汚してしまいたいという背徳感が堪らんがな。」

窓の縁に肘を置き、遠くを見ながら黄昏ている。
そんな明智殿が不覚にも綺麗だと思ってしまった。

今は目の敵かのように明智殿を見ている木下殿もこのような格好いい男と毎日口付けを重ねていれば、心が動いてしまうのではないか。

そういう思いに至った時、それが明智殿の狙いなのだと気づいた。