「……木下殿?」
「いやなに、すまんな。半兵衛が本気で怒ってるのをみていたら、私は大事にされておるなと思っただけじゃ。」
「あっ当たり前ではありませぬか。それがしは木下殿が好きなのですから…。そんなことより明智殿の事を…」
「分かっておる。こうなっては仕方ない。体を要求されなかっただけ良しとしよう。口付け程度さらっとこなしてやろうではないか。」
木下殿は一度体を自分から離し、くるっと目の前で反転しそして自分に抱きついてきた。
「半兵衛…ありがとな。」
今まで自分から抱き締めることはあっても木下殿からそれをすることはなかった。
それは仕方のない事だと分かっていた。
木下殿の心は大殿にあって、自分にはないのだからと。
「私はな。明智殿の条件よりも、半兵衛に見られたことの方が嫌だった。」
こんな風に抱き締められ、そんな風に言われたら勘違いしてしまう。
思わず木下殿を離したくなくて、木下殿を抱き締め返す。
「木下殿…そんな事言われたら、それがしは期待してしまいます。」
そう言って抱き締めていた手を緩め、木下殿の顔を片手で持ち上げ重ねる程度の口付けをした。
木下殿は嫌がる事なく、更に口付けを繰り返した。
それは甘く、だけども大殿のことを思い出す。しかしそれを忘れるために何度も口付けを交わした。

