光秀は大殿が秀吉に向ける優しい目に気づいていた。会うまで単に遊び程度なのだろうと思っていたのだが、実際はそんなことは無かった。
「秀吉は大殿のお気に入りといったところか。」
「そのような事は…」
「しかし口付けまで現にしていたではないか。」
反論の出来ない秀吉に対して、口角を上げる光秀。端正な顔立ちの光秀がするとひどく様になっている。
「ふっそれにしても秀吉。会ってみたらなかなかの美人じゃの。余のものにならんか?」
「なるわけないじゃないですか。そもそも大殿のお気に入りに手を出しても良いのですか?」
先程言われたことを逆手にとり、反論をする秀吉。しかし光秀に焦ったところは見られなかった。逆に笑みを深める光秀に秀吉は少し恐れていた。
「あのような厳しそうなお人のお気に入りだからこそ、といったところか。しかしお主の半兵衛は、秀吉の事を女として好いているように見えたが?一緒に住んでいるらしいな。」
あからさまに先程敵意剥き出しだった半兵衛の事を考え失笑する。
「半兵衛とは別に何もないので。」
「ほう。そうかそうか。」
信じていなさそうな返事に少し秀吉は苛々していた。
「そうじゃ、先程他言しないと言ったがな。条件がある。」
秀吉は苛々していたこともあり、いつもの冷静沈着な顔が崩れ顔を歪めた。
「なんでしょう?」
それを見て光秀は口角を上げたまま告げた。
「条件は二つある。一つは柴田殿との仲を取り持ってはくれぬか?人たらしとまで呼ばれているお主なら、柴田殿とも仲良くしておろう?」
「構いませぬ。もうひとつの方は?」
その程度の事かと秀吉は内心安堵していた。しかしそれと同時にそんなことを言うためにわざわざ半兵衛に席を外させたのだろうかと疑問に思った。
「もうひとつの方はだな。一日に一度余と口付けをしろ。」
そう言われて思わず秀吉は固まってしまった。あまりにも予期せぬことだったために頭が付いていかなかったのだ。
「は……?む、無理です。」
なんとか気を取り直し拒絶をしてみるが、光秀はそれを良しとはしなかった。
「ほう。なら仕方あるまいな。交渉は不成立…」
「わ、分かりました!」
そう焦りながら光秀の言葉を遮る秀吉。光秀は笑みを浮かべ秀吉の元へと近づいた。目の前に来た光秀は片膝をついて秀吉を抱き締め、口付けをした。
優しく、しかし秀吉の唇を楽しむかのように。
それはしばらく続いた。

