ゆっくりと襖が開き、木下藤吉郎が部屋へとはいる。
「遅くなりました。」
「いや、構わん。」
織田信長が目の前に座るよう促す。それに従い藤吉郎は信長の目の前へと腰を降ろした。
信長は先程の藤吉郎と半兵衛のやり取りを上から見ていた。半兵衛の想いを感じ取りながら。
「藤吉は半兵衛の事どう思っている?」
だからこそこのような質問をしたのだ。
しかし、その問いかけの意図が読めなかった藤吉郎は首を傾げながら答える。
「半兵衛…ですか?優秀ですよ。真面目ですし。」
「そうではない。男としての半兵衛をどう思っているのかと聞いている。」
ようやく質問の意図を理解した藤吉郎は、それでも信長の考えている事が読めないでいた。
そんな藤吉郎を見て苦笑し、藤吉郎を少し抱き寄せながらおでこをつけ信長は聞いた。
「じゃから、半兵衛とこのような関係になりたいかと問うておる。」
そう言って優しく軽く口付けをした信長に、藤吉郎は焦り顔を真っ赤に染める。
「そ、そんなこと!半兵衛とはそのような…」
「しかし、この間抱き締められたのだろう?」
「それは…!」
どもりながら何とか言い訳を述べようとする藤吉郎を、信長は更に問い詰める。
「あれから半兵衛とは何かあったか?」
「い、いえ。そのような事…は…」
女でいるときの藤吉郎はすぐ焦ったり、恥ずかしがったりという感情が顔に出る。恐らく男でいるときの反動なのだろう。
信長はこの様子からすると特に何も無かったのだろうと気づいてはいた。しかしそれでも許せなかった。
半兵衛に心を許す藤吉郎が。
信長は強めに藤吉郎に口付けをした。
半兵衛の事など微塵も考えられないように、と。
「おお……と…のっ。」
必死に息を吸いながら呼び掛けてくる藤吉郎を見て、信長は更に強く口付けをし、藤吉郎を抱え布団が敷いてある隣の部屋へと連れていった。
「あのっ大殿…!」
「……今日は帰さん。」
そう静かに告げた信長を見ながら、藤吉郎は半兵衛に言った事を思い出していた。
しかしそれも束の間。次の瞬間には信長の口付けに酔いしれてしまっていた。

