翌日の夜中に出発をし、もう少しで明け方というときに大手門近くで待機していた。
木下殿達が小隊で揉め手のほうに回っている頃だろう。
気が気ではなかったが、木下殿が揉め手に向かう前に笑って大丈夫だと言ってくれた。
それを信じるしかなかった。
「半兵衛は心配性じゃな。藤吉なら大丈夫じゃ。」
一度大殿の意向を伺いに行った際にそう声をかけられた。顔に出てしまったのだろうか。
その時思い知らされたのだ。大殿のたったひと言で。大殿が木下殿に抱く信頼を。大殿は木下殿が必ず成功させ無事に戻ってくると信じている。
正直羨ましい思いがあったが、それと同時に悔しかった。
大殿は自分よりもずっと以前から木下殿の事を知っていて、お互い信頼しあっている。
それは凄く強固なものだ。
負けた気がしてしずしずと自分の受け持つ隊へと戻り大殿のように信じて待つことにした。
夜が明けきらないぐらいの時間に稲葉山城の中が騒がしくなった。中の斎藤家の者達が大声で叫んでいるのが聞こえてくる。
すると大手門とは逆の裏手から煙が上がってきたのだ。
どうやら上手く行ったようだ。
すると大殿からの号令がかかり、一気に稲葉山城の大手門まで皆で走っていった。
それからはとんとん拍子に物事は進んでいった。
木下殿達のお陰で大手門に割かれた人数が少ないうえに、稲葉山城にいた人達は火が放たれた事に混乱していた。
そのあと木下殿達が合流し、一気にあの強固で難関だった稲葉山城はものの見事に織田家に攻め落とされたのだった。
本当に一瞬の事だった。

