一口に稲葉山攻めと言うのも聞こえはいいが、織田家は何度もこれを失敗に終わらせてきている。
どうするのだろうと会議を木下殿の傍らで聞いていながら首を傾げていた。
「一つ案があります。」
木下殿が一斉に重鎮達の視線を集める。どうして木下殿は男として振る舞っていると顔色一つ変えずに凛としていられるのだろう。
後ろに座りながら疑問に思っていた。
「調査した結果、強固な城故に揉め手が手薄な模様。それがしが揉め手から忍び込み火を放ちます。混乱の渦になったらその時に大手門から突撃するというのはいかがでしょう?」
揉め手というのは裏口の事だ。
木下殿はそんなことを調べていたのだな。自分に聞けばすぐに分かるだろうに。恐らく本当に自分に今回の戦に関わらせたくなかったのだろう。
木下殿の優しさが窺える。
「ほう…悪くない案だな。ここはどうです大殿。藤吉の案に乗るというのも良いのでは。」
筆頭家老の柴田勝家殿が木下殿の案を後押しする。普段は木下殿の事を小者と扱っているお人だが、城攻めや戦の事になると木下殿に一目置いているのが分かる。
「…そうじゃな。では藤吉。揉め手から火を放ってこい。煙が上がり次第大手門から突撃する。しかし、なかなか煙が上がらない場合は失敗したとみなして突撃するからな。」
「ははっ。この藤吉郎必ずや成功させてみせまする。」
そう言って会議は終了した。攻めるのは明後日の明朝。
明日は各々軍備にあたる。そして夜中のうちに出発するという予定だ。

