「5日後に稲葉山城を攻めることになった。」
木下殿の顔には気まずさが出ていた。
きっと元々いた所で尚且つ昔の仲間逹を討つことになる。西美濃三人衆とその部下逹は織田家に降りたからいいものの、斉藤龍興殿直属の家臣逹は恐らく捕らえられるか殺されてしまうのだろう。
恐らくそれがしが元の仲間を殺されることを悲しむのではと案じているのだろう。
「半兵衛は今回戦いからは外してもらうよう大殿に言ってある。」
木下殿の優しさだと分かっている。きっと辛くなるだろうと思っての配慮だと。だが女子の木下殿が行くのに自分は行かないなど耐えられない。
「それがしは斉藤龍興殿の直臣の方々から疎まれていた身。そのような気遣いは無用です。それがしも連れていって下され。」
「まぁそう言うな。半兵衛は最近忙しそうにしておったろ?これを気に休んでおればいい。」
そう言って柔らかく笑う木下殿。しかしやはり諦めきれないでいた。
「木下殿が行くのに、それを御守り出来ないのは嫌です。」
そう強く言うと木下殿は少し困った顔をしていた。
「じゃが…。」
「お願いします。お連れくだされ。」
そう真剣に言うと木下殿は目をつむり考え、ゆっくりと首を縦に振った。
そして困ったように笑った。
「半兵衛は強情じゃのぉ。」
「そんなことござりませぬ。」
「いいや!強情じゃ。」
そう言って楽しそうに笑う木下殿に思わず心が踊る。
いっそのこと抱き締められたならどれほど幸せか。
「では、わしの事を頼むぞ。」
「ははっ。」
そう言って二人で笑いあった。
正直大殿が羨ましかった。きっと木下殿の心は大殿にある。こうして心配してくれて、可愛らしく笑っている木下殿を独り占めできて。
知らなかったとはいえ、抱き締めたときの事を思い出していた。
知ってしまった今、そんなことは出来ない。

