「殿!お市の方様が、浅井家の使用人に連れられてきました。」

「良かった!長政はお市の方様と自害されなかったのか。お連れしろ。」

連れてこられたお市の方様は秀吉殿を強く睨み付けながら叫ぶ。前にお会いしたときは冷静で物静かな方だっあのに、今は明らかに雰囲気が違う。

「秀吉!私を長政様の元へと行かせろ!」

「なりません。」

「私は浅井家の人間よ!一緒に自害させなさい!」

秀吉殿はお市の方様へと近づく。そんな秀吉殿に噛みつかんとばかりに詰め寄り秀吉殿の胸ぐらを掴むお市の方様。

「なりません。大殿が悲しみます。」

「噂に聞いたが、お主女なのじゃろう!?ならば…この気持ち分からんのか!!」

「分かりません。長政殿があなたに生きて欲しいと願ったのなら、それをまっとうするのがあなたのするべき事です。」

そう冷たいとも取れる秀吉殿の言葉にお市の方様は睨み付けながらも何も言い返せず黙る。

「長政の遺体を発見しました!自害した模様です。」

報告に来た兵士のその言葉にお市の方様は絶望し、秀吉殿の足下で泣き崩れた。
そんなお市の方様を秀吉殿は顔色一つ変えず見つめ、兵士を何人と正勝殿を呼んだ。

「お市の方様を大殿のいる岐阜城へとお連れしろ。」

「はっ!」

「正勝、頼んだぞ。」

正勝殿を選んだのは得策だろう。彼は共にいるだけで和める。お市の方様は秀吉殿の顔を見たくはないだろうし。


こうして小谷城の戦いは当初秀吉殿が予期していた通り、後味の悪い戦いとなった。