これから通う伊織の中学校はそれまで通っていた小学校と他の二つの学校の卒業生が集まる。一番の進学校ではないが、伊織の住む県の中では五本の指に入る学校である。

近くで友達の由宇と合流して、一緒に向かった。期待と不安が入り交じる中、由宇が一緒で安心した面持ちだった。
由宇とは幼稚園からの仲で、伊織の親友である。
家族ぐるみの仲で、先日も両家で入学のお祝いをしたのだった。
たわいもない話をしつつ歩いていると、同じ制服を着た学生が増えてきて、目指す学校が近付いてた。
「緊張してきたね」
そう、伊織がつふやくと
「うん、私も緊張してきたよ」
と、由宇も答えた。
由宇の手は心做しか震えているようだった。
校門が着いた。向かって右側に入学式と書かれた看板が掲げられていた。続々と校門をくぐり校舎へと歩いていく人達を横目に一歩目を躊躇っていた。
「一緒にせーので行こう」
と、由宇が照れながら言った。
「いいよ、一緒に行こう」
と笑顔で伊織は答えた。
せーのと二人は声を合わせて、第一歩を踏み出した。
校門を抜けると広い校庭と左側の大きな桜の木が目に止まった。
伊織はその桜の木に目を奪われた。伊織の一番好きな花が桜のである。
既に散り始めてはいるが、綺麗に花が咲き乱れている。もう何年も経っているのだろう、身長の何倍も大きく育っている。一歩また一歩と伊織は桜の木に近付いていく。由宇はそんな伊織に
「時間なくなっちゃうよー。早くしてねー。」
と、声をかける。緊張しいの由宇は一人で教室に向かうのは気が引けた。
「すぐ終わるから、待ってて。」
と、あまり気にしていない様子。この辺りの図太さは父親譲りなのだろう。
目の前まで来ると改めてその大きさに圧倒された。目を閉じて、木の幹に手をかざす。爽やかな木の香りと風が奏でるせせらぎが伊織を包み込んでいった。
いってきます。と、心の中でつぶやきその場をあとにする。
由宇と一緒に校舎へと向かっていった。