「15秒26!」
コーチの大きな声に釣られるようにしてあたしは顔を上げた。ところどころから、うそっ、すごすぎ!と声が聞こえる。やった、また記録を塗り替えた。
あたしは水泳部に所属している瑠璃 仁奈(るり にな)。泳ぐことが好きでこの部活を選んだけど、意外と本気になっちゃって・・・。オリンピックを目指してます。
「仁奈!すごいじゃないか、これならジュニア大会も夢じゃないぞ!」
その言葉に、自然と口端がつり上がった。ジュニア大会っていうのは、47都道府県から1人ずつ選出された選手がタイムを競う大会のこと。そこでベスト2に入ると、オリンピックは目前となる。あたしもいつかはその大会に・・・!
体を拭きながら、そんなことを考える。
「すごいですね、先輩!スポーツドリンク買ってきたので、飲んでください!」
可愛い後輩たちが寄ってきてくれて、スポーツドリンクとタオルを渡してくれる。
「ありがとう。」
静かにそれを受け取り、一気に飲み干す。このキラキラした世界で、これからも生きていければいいな・・・。

帰り道。あたしの周りには水泳部の子達がたかっていた。高校生になってから、友達と登下校することがなくなった。別にいじめられてる訳ではなくって、このクラスがただ、内気だから・・・。雰囲気に気圧されて、話しかけられず、いつの間にかクラスに友達がいなくなった。
だけど、いいんだ。水泳が出来れば。水泳部の子達と別れると、あたしは家路を急いだ。