適当な服を選び、部屋を出る。

木製の階段を降りると、途中からベーコンの焼ける良い臭いがした。

ルークはベーコンを焼いているエリーザ・フィルツと話をしていた。

エリーザは元々大きな屋敷のメイドをしていたらしく、この家では家事をしてくれている。

彼女もこの家の住人で、魔導師だ。

たった今彼女の回りには調味料がふわふわと浮かんでおり、それを掴んではまた

空中に浮かせて置くという不思議な調理法だ。

エリーザは栗毛色の腰まであるウエーブのかかった髪をふわりと揺らし、

紫色水晶の様な色合いをした瞳で此方を見た。

「フィオナ、御早う。またうなされてたんだって?
朝御飯もう出来るから皆を呼んできてくれる?多分まだジェレちゃん達は寝てるわね。
クラークさんはお庭でお花にお水をあげてくれてる筈」

「御早う、エリーザ。呼びに行ってくるね」



私はそのまま小走りで、急いで二階へと上がってジェレ、と書かれた扉をノックした。

「起きてるー?」

返事が無いので、部屋の中に入る。

部屋の中では、二つのシングルベッドに一人ずつ、

顔のそっくりな男女がすやすやと心地よさそうに眠っていた。

女の子の方が、カロル・ジェレ。

男の子の方が、カミーユ・ジェレ。

双子の魔導師。

二人の体を揺すってみるも、起きようとする気配は無い。

それならば、と私は少し大きめの声で言った。

「二人の朝御飯、私が食べちゃうよ!」

するとどうだろう、二人はガバッと思い切り起き上がった。

「駄目だよ、フィオナ!」
「僕達のご飯だよ!」

私ははいはい、と言いながら寝癖の酷い二人の黒い艶々の髪を撫でた。

二人はまだ納得のいかないような顔をしていた。

そんな二人の目は大きく、青空をそのまま写し込んだ様な瞳をしている。

「もう朝御飯だから、早く来てね」

私がそう言えば、二人は元気にうん!と言った。



私は一階に降り、玄関を通って庭へと出た。

庭の花が沢山植えてある所に、彼は居た。

花を見ており、私に背を向けているので、私は近くまでそおっと歩き、

思い切り背中を押した。

「クラーク、御早う!!」
「う、うわあ!?」

振り向いたのは、茶髪で黒い目をした、クラーク・ヒューム。

魔導師で、この家で一番の年上である。

クラークはずれたらしい眼鏡を指で上げてから、疲れた声で言った。

「フィオナ、貴女って人は...」

「あはは、ごめんなさい」

私は笑って頬を痒くもないのにポリポリと掻いた。

「あ、クラーク、朝御飯だって」

「おお、それはそれは!」

クラークは嬉しそうにふわりと笑った。

その笑みに答えるように、蕾だった花がふわ、と花を一斉に開いた。

これはクラークの魔力が勝手にそうしているらしいが、

クラークが笑うと、花が咲く。私はそんな優しいクラークの笑顔が大好きだ。




私とクラークがリビングに行くと、皆席に着いていた。

「遅いよー!」
「お腹空いたー!」

カミーユとカロルがバタバタと足を動かす。

私はゴメンと謝りながら、定位置であるルークの前の席に腰を下ろした。

いただきます、と全員の声が合わさって鼓膜が震える。

これを聞くと、何だか気持ちがシャッキリしてしまうのは何故だろうか。




食べ終わり、皆が席を立とうとすると、エリーザが深刻な顔をして言った。

「待って。話が、あるの」

普通では無いその表情と微かに震えた声に、私達は静まってエリーザを見た。