少ししてから待ち合わせ場所の遊園地へ2人で向かった。遊園地へ到着するとそこにいたのは…中島さんとあの時どう見ても人数合わせだったはずの中原さんが待っていた。なんで、中原さん?…私と同じで押し切られたのかな?友達には優しいのかも?…そういえば合コンの時に小学校からの友達で中島と中原で席順が隣だったことがきっかけで仲良くなったって話してたような…まぁいいか。これも人数合わせのようなもんだし…なんとかなるでしょ。
直前まで緊張していた愛莉は中島さんを見た瞬間、はじけるような笑顔で駆け寄っていき、女の私が見てもドキっとする表情だった。あー…中島さんイチコロだな。2人でも十分楽しそうにしてるし。上手くいくといいな。
今日の中島さんはTシャツの上に羽織ったシャツにジーンズ姿。中島さんの雰囲気によく似合っている。隣の中原さんは黒のVネックにニットジャケットを羽織り長い足でチノパンを履きこなしている。
2人ともすごく目立ってるよ…遠くからでもイケメンオーラがスゴイです。
愛莉と中島さんは美男美女ですごくお似合いだな。だけど…中原さんと私が並んで歩いたら周りからの嫉妬と羨望の視線に耐えられないかもしれない。と結構本気で思った。
だって、中原さんこの前も思ったけど…柔らかそうな髪に引き込まれそうなくらいな薄茶色の瞳で相当羨ましい。…髪も瞳の色の真っ黒な私からしたら羨ましすぎる!
実際はこちらも美男美女なのだが、いかんせん美羽は自分に自信がないため引け目を感じてしまっていた。
少し前を歩く愛莉と中島さんを見ながら…そうか…あの2人がイイ感じならあえてはぐれるのもアリか。…でもさすがに今はまだ早いかな?…もう少し距離が縮まったら2人きりにしてあげよう!声に出しているつもりは無かったんだけど、中原さんの表情からすると声に出てしまっていたのかもしれない…そうだとしたら恥ずかしい。それを無理やり誤魔化すかのように
「中原さん、私たちも行きましょう。2人に追いつかなくちゃ。」
4人でいくつかアトラクションに乗った後…当初計画した通り、愛莉たちの距離が縮んだのを見計らい中原さんに協力してもらって、そっとその場から離れ2人きりにすることに成功した。中原さんが中島さんに連絡してくれるようなのでお任せした。
さてと、これからどうしようかな。私は話題になっている園内のレストランに行きたいんだけど…中原さんは嫌がるかもしれない…私としては別行動にしてまた後で合流してもいいんだけど……正直、2人になってから周りの刺さるような視線を感じ…中原さんが注目されている状況で…中原さんも1人になりたいかなって思ったんだけど…。
「中原さん、これからどうしますか?…私はこれからご飯食べに行こうかと思うんです。園内のレストランのご飯がおいしいって話題で…特にハンバーグが絶品らしいんです!」
中原さんは突然の提案に少し驚いた様子で、しばし考えたあと笑顔で
「俺も一緒に行きます。ハンバーグおいしそうですね。」
中原さんがいいなら、まぁいっか。
「そうですか。じゃあ行きましょう!」
レストランでは煮込みハンバーグを食べた。評判通りすごくおいしかった。中原さんも満足げで良かった。しばらく休憩したあと2人で新登場のアトラクションに並び楽しく過ごしたあと愛莉たちと再合流した。
2人の距離もだいぶ縮んだようでやっぱり2人きりにして正解だったな。と満足し解散した。
帰宅後、さっそく愛莉からメールで
『今日は楽しかった!ありがとう!また協力してね?』
『りょーかい。』
もう2人きりでも大丈夫なんじゃないかと一瞬頭をよぎったけど…私も今日は楽しかったし、まぁいいか。
その後も愛莉に誘われるたび遊ぶことが増えていき、次第に仲良くなって呼び方も名字から名前呼びに変わっていった…何度か4人で遊ぶうちに愛莉は修平くんと付き合いだした。
7月の夏の暑い日…久しぶりにみんなでドライブがてら海へ遊びに行くことになった。愛莉たちが付き合いだしてから恭護くんに会う機会もなくなっていた。1カ月ぶりだろうか…彼と会わない期間に自分の恋心に気付いてしまった…それでも片想いできるようになっただけで進歩だと自分に言い聞かせて浮つく気持ちを胸にしま いこんだ。
今日はよく声をかけられるなぁ。…なんでだろう?
慣れないことに苦労しながらようやくその輪から抜け出すことに成功した。内心ホッとしながらも…やっぱりビキニじゃなくてワンピースタイプの水着にすればよかった…布の面積が小さいしなんか落ち着かない…早く上着取りに戻ろう。
海へ遊びに行くことが決まってから愛莉に誘われて一緒に水着を買いに行った。
愛莉が買った水着はフリルが付いているけどちょっぴりセクシーなローズピンクの花柄ビキニで愛莉に色違いのお揃いにしようと言われたがそれはなんとか回避した。…だって愛莉と比べられたら可愛くないし…それにあの水着を着る勇気はなかったから…だから、シンプルで人気だという黒地に白のストラップのビキニに決めた。本当はワンピースタイプの体型が隠せるものにしたかったが愛莉や店員さんの勧めに押しきられた形で決定した。
やっぱり何か変なのかな?…戻る途中また知らない人に声をかけられ、少し困っていると恭護くんがそばに来て声をかけてきた男の人を追い払ってくれた。
「他の人の所に行かないで俺の側にいて」
恭護くんに迷惑かけちゃった…嫌われちゃったらどうしよう。
「大丈夫だよ。迷子にもならないし迷惑かけないように気をつけるから恭護くんも楽しんでね?」
様子をうかがいながら発したその言葉は彼には予想外だったようで…
「や、そうじゃなくて…美羽、俺の恋人になってって言ってるんだけど。」
耳のあたりが少し赤くなった恭護くんからの告白に
「ほんとに?…私でいいの?」
信じられなかった…恭護くんが私のことを好きになってくれるなんて思ってもみなかった…。
「美羽がいいの。…で返事は?」
瞳を潤ませ顔を真っ赤にした美羽は
「私でよければ…よろしくお願いします」
胸がドキドキと脈打つのを感じながら恭護くんを見ると少し早口で
「とりあえず何か上着着てくれる?目の毒だから。…またナンパされたら困る」
美羽にとって念願の上着を差し出しながら言った彼に、さっきのはナンパじゃなくて海の家の勧誘だったよ?ナンパなんてされるわけないよ〜とのんきに話していたら焦れた恭護から突然の口づけで続きを塞がれた。
ほら、行こう。と差し伸べられた手を握り、少し遠回りして2人の元へ戻った。
愛莉にさっそく付き合うことになったと報告した。
「最初は両思いだなんて信じられなかったんだけど…恭護くんが”美羽がいい”って言ってくれて…」
顔を赤らめながら話す美羽にわかりきっていたかのようにニヤニヤしながら愛莉は
「やっとかぁ。意外と長くかかったね。そうなると思ってたんだ!良かったね!おめでとう!今度はほんとのダブルデートだね!」
初デート
付き合うことになったのはいいけれど…海で会って以来、デートに誘えないまま数日が過ぎていた。正直、あれは自分の妄想だったんじゃないかとも思いながらも、このままではいけないんじゃないかと不安になり愛莉に相談してみると…
「そんなことでウジウジしてないで、思い切ってデートに誘ってみなよ!」
自分のときはあんなに悩んで私をダブルデートに連れ出したくせに…そのおかげで恭護くんと付き合うことができたんだけど…ね。
「迷惑じゃないかな?」
「付き合ってるんでしょ?断られはしないでしょ〜」
愛莉の言葉に背中を押された美羽は思い切って彼を花火大会に誘った。
すぐに彼から『もちろんOK』の返信が届きひとまずホッとした。
翌日
「来週の花火大会に行くことになったよ!アドバイスありがとう。今からドキドキする…」
「そっかぁ。よかったね!私たちも花火大会に行くから向こうで会えるといいね!私は浴衣を着る予定なんだ。美羽は浴衣着ないの?」
…愛莉いわく、”夏にしか着れないし1度くらい着る機会があると思ってこの前帰省したときに持って帰ったんだぁ。”だそうだ。
「私は実家に置いたままだから。服で行くつもり…それでね、愛莉さん。服はどうしたらよいでしょうか?」
途端に愛莉は爆笑しだし、周りも何事かと注目を集めてしまった。
「…ひどいよ愛莉。笑うことないでしょう?」
こっちは藁にもすがる思いで相談したのに笑うなんて…
「ごめん、ごめん!…美羽があんまりにも可愛いこと言うもんだから。うーん…とりあえず足を出しなさい。」
ニヤニヤしながら言うもんだから…冗談なのか本気なのかよくわからない。
「…なんで足?ジーンズは却下ってことね。」
「だって美羽…長くてキレイな足してるんだからもったいないよ!出していこうよ。足!」
自信満々な愛莉には悪いけど、そんな足に自信持ってないんですけど……
結局…愛莉に服選びを手伝ってもらい、サマーニットにショートパンツという格好に決まった。花火大会なのでどこかに座る場合スカートよりショートパンツの方が動きやすいだろうという判断だ。
その日は朝からソワソワして落ち着かなくて…何度も時計を見てはわけもなく立ったり座ったり部屋をウロウロするうち、時間になり待ち合わせ場所の並木道の入り口まで急いだ。並木道に着くとすでにもう恭護くんが待っていた。
「ごめんね。…恭護くん、待った?」
「いや、今来たところ。それにまだ待ち合わせの時間前だし……そうだ。地元の人しか知らない花火がキレイに見える穴場スポットがあるんだ。行こうか?」
差し出された手をつなぎ、屋台で飲み物や焼きそばなど買いながら人混みを歩いた。通り過ぎる人たちが彼をチラチラ振り返り”あの人かっこいい”と見惚れている姿を見つけるたび…隣に私がいてもいいのかな?と不安になったけど、しっかりと握られた手が大丈夫だと諭してくれているようで安心した。
そして並木道を抜けて少し行ったところの穴場スポットに到着した。
彼が連れて行ってくれたそこは本当にキレイに花火が見えて感動した。そして、彼との思い出が増えて嬉しかった…記念に2人でとった写真をさっそく待ち受けに設定した。
花火が終わった頃に愛莉達と遭遇した。浴衣姿の愛莉は端から見てもよく似合っていてとても可愛かった。愛莉達は違う場所で見ていたらしいが、そこは人が多くて見づらかったと愚痴っていた…ただし、とても楽しそうに。
「一緒に見れば良かったね…こっちは穴場だったよ。」
思わず笑みがこぼれていた…それを見た愛莉は「羨ましい!来年は必ず穴場スポットで見よう!」
来年の事など想像すらしていなかったけど、来年はみんなで一緒に花火を見れるといいな。そうなったら来年は浴衣着てみようかな…と心の底からそう思った。
夏休みには4人で旅行にも行った。恭護が知り合いに借りたという別荘でバーベキューやドライブなど楽しく過ごし思い出がまたひとつ増えた。
そのうちにお互いのアパートを行き来するようになり少しずつ荷物も増えていった。恭護は美羽の女の子らしさを引き出していき、そして美羽も失っていた自信を少しずつ取り戻していった。
恭護には元彼とのことも正直に打ち明けた。愛莉以外は知らないことを話すのには勇気がいったけど、恭護はなんとなく私に傷ついた過去があることを感じていたみたいで…最後まで話を聞いた後、元彼に対してすごく怒ってくれた。…彼に大切にされているんだなと感じてすごく嬉しかった。そうやって彼と付き合いだして思い出も数えきれないほど増えていき、時々ケンカもするけど2人で時を積み重ね穏やかな日々が続いていた…恭護と私は順調だったはずなのに……どこで間違えたんだろう。
今でも鮮明に思い出せる…懐かしく幸せだったころの記憶に、思い出に、心が疼いた。
