▼△▼△▼△▼△▼△
入社したての頃、詩織先輩からアドバイスまではいかないが世間話感覚で
「プランナーで指輪してる人が多いのなんでかわかる?…あのね指輪してるとね…経験者だからって安心感を与えられるの。…それに口説かれて仕事に支障が出て困る事もなくなるしね。もちろん指輪をしているだけで全て解決できるわけじゃないし…必要ないって人もいるから、個人の自由なんだけどね。」
詩織先輩が指輪をしている理由は後者のほうが大きいのではないか…と思ったら今している指輪は恋人からプレゼントなんだとか…詩織先輩は幸せそうな顔でそう教えてくれた。
でもその後、半年程で恋人とは別れてしまったらしい。原因は遠距離だったからみたい。
「遠くの彼より近くの俺じゃダメですか。」
そんな言葉を本当に言った人がいるんだって…まぁ工藤なんだけど、その時は相手にもされなかったって相当凹んでて何度かヤケ酒につきあった。
あの頃はまだ仕事を覚えることに精一杯で自分には必要ないだろうと思っていたけれど…最近なぜか不思議なんだけど、式の招待者からナンパまがいなことが多くなってきて、仕事に支障が出て困ることがあったから指輪を買うことに決めたんだった…今のところ誰かに指輪をもらう予定はないので指輪を買いにいくことにした。…本当は雑貨屋さんとかにある安い指輪で良かったんだけど、1人でお店に見に行った時試しにはめてみたら指が痒くなっちゃって…自覚はなかったけど、金属アレルギーだったみたいで、仕事中ずっとつけていられないと困るから少し値段高めでも痒くならない物を買うことにした。
工藤にそのことをポロッと話したら、一緒に行きたいと言うので理由を聞いてみたら…
「1人では買いずらいし他の女の子だと自分へのプレゼントだと誤解されるといけないだろ…それに最近やたらお客様に声掛けられてさぁ」
笑いながら言ってのけるあたり彼のモテ具合が垣間見えた…だが美羽は知っていた。工藤が詩織先輩に誤解されたくないからだと…。
工藤と仕事帰りに最寄駅から2駅先にあるこの辺りでは1番大きなショッピングモールへ指輪を買いに行った。
ジュエリーショップのあるショッピングモールに着いた頃愛莉が電話で
「突然だけど今どこにいる?」って聞かれたので、なんの疑いもなく居場所を伝えた。
ショーケースにはたくさんの指輪が並んでいる
店員さんが「恋人にプレゼントですか?」
と尋ねてきたがそこは即答で
「違いますっ!ただの同僚です.....」
店員さんは信じていない様子だ。そりゃあ男女が指輪を見ていれば無理もなし、2人でショーケースを覗き込んでいればカップルに見えてしまうだろうと思う。
工藤は気にとめる様子もなく、自分ひとりがムキになって否定しているのも馬鹿らしくなりため息がでた。
それでもたくさんの綺麗な指輪をみているだけで顔がほころんだ。
今月はいろいろ出費が多くピンチなので、なるべく安く済ませたいのにアレルギーのせいで半端なものは買えない…。ケースを覗きこむとひとつ買うよりもペアリングの方が安い!なんとペアリングのみ30%オフだ。
だが、工藤とペアというのがいただけない…工藤は詩織先輩とお揃いじゃなければ意味が無いので、基本的になんでもよかったらしくペアというのさえ気にしなければ安さにこころが傾きつつある……結局安さに負けてペアリングを購入した。
工藤と図らずもペアになってしまった指輪はシンプルだかラインが入っているものでよくよくみなければペアだとはわからないだろうと自分を無理やり納得させた。
その行動が後に誤解を招くことなど知らずに...
工藤は隣で
「お揃いだね〜」
とヘラヘラしてイラッとしたので
「あんまり調子のってると詩織先輩に誤解されても弁解してあげないかもよ。」
途端に同期男は焦っていたがとりあえず無視することにした。
指輪を買う前に一瞬、会社の人に誤解されないかな?と頭をよぎったが周りの人はほとんど恋人がいるし、工藤が詩織先輩に気があるのを薄々感づいているようなので大丈夫だろう。
詩織先輩には正直に”ペアリングのみ、30%オフだったんです!安さに負けてしまいした!”と言えば爆笑はすれどあらぬ誤解は避けられるであろう。
心の中でこれは工藤に貸し1つだな。誤解を防いでやったぞ!と自分を褒めておいた。
後に工藤からはお礼代わりに食事をご馳走になった。とはいえ詩織先輩が美羽と3人ならいいよ。と言ったらしく私はオマケだったのだけど?まぁ仕方あるまい…工藤は誤解を防いだことを知らないのだから。…優しい私はそれでも貸しをチャラにしてあげた。
△▼△▼△▼△▼△▼
「じゃあ、指輪を買っていたあの時、恭護が私を探してたってことなの?」
「わからない……その後美羽を見つけたかどうかも…。」
でも、もし彼が私を見つけていたら…?あの状況は誤解を招くんじゃないかな?
あの時、誤解を招く事になるとは知らずに呑気に指輪選びに没頭していた自分を殴りたい気分…彼の前で他の人とのお揃いの指輪をさらしていたなんて、もし私が逆の立場だったらきっと耐えられない…。
彼が私を選ばなかったのは当然だ。…仕方ないよね。すべてが遅すぎたんだから…。
「ねぇ、愛莉。今日見たことは修平くんにも話さないでほしい…お願い。」
修平くんが知れば彼が知ってしまうかもしれない…
「それでいいの?美羽はまだ好きなんでしょ?さっきのことを知ればチャンスが生まれるかもしれないのに。…本当にいいの?」
確かに2人が別れればチャンスは生まれるかもしれない。…でも私にそんな資格はないから。
「うん、いいの。だからお願い。秘密にして?」
「…わかった。修平には恭護くんが御曹司だったこと、この前美羽に聞いて修平を問い詰めるまで騙されてたんだから。これぐらい平気だよね。」
冗談まじりに承諾してくれた愛莉に安堵しその話を避けるかのように話題は他のことに変わっていった。
最近ずっとだ…いい加減にしてほしい。物陰から姿を現したヤツを見てげんなりした。田中だ。…仕事中に相手にされないと悟ったのはいいけど美羽が仕事を終え帰る頃を見計らって待ち伏せしたり、偶然を装って度々職場の近くに現れる。田中は営業職で割と自由がきくらしい。こちらとしては迷惑極まりない話だ。
最初の頃はたまたま美羽に会いに来ていた奏くんが恋人のふりをして助けてくれようとしたけど…奏くんが従兄だとバレていた。その場では引き下がったけど、また来るのは時間の問題だろう。住所を知られることは避けたかったので、わざと遠回りして帰ったり奏くんに車で送ってもらった事もある。
田中はなんとか藤咲家具の跡取りの奏くんにも取り入ろうとしたらしい。百戦錬磨の奏くんにあっさりかわされて敵わなかったようだけど。田中に他に付き合っている人がいると言っても信じてもらえず…精神的に疲れてきた頃…しびれを切らした田中に無理やり連れていかれそうになったその時…彼が…恭護が助けてくれた。
彼が田中の耳元で何かをささやいた直後、ヤツはそそくさとその場を後にした。
なんで彼は助けてくれたんだろう?田中に何を話したんだろう…彼の横顔からは何も読み取れない。ねぇ……期待してもいいの?
