ーーー履きなれないヒールを履くのは、もう慣れた。


2ヶ月前から始めたキャバクラは、想像以上に身を削る仕事だった。

私には似合わないドレスやメイクをして『自分』を作り、

思ってもないことを笑って喜ぶ事が今では得意になった。


お給料が良い、という甘い考えで入ったこの世界はやっぱり生半可な覚悟で勤まるわけがないと思い知った。


お金が必要だから嫌な事をされても乗り切るしかなくて、汚い親父に触られるために働いてるんじゃない。

こっちは生きてくために必死なんだよ。

抱え切れないほどの借金がある。


最初はバイトを掛け持ちをしてどうにかやりくりをしてた。

けど、生活費もあってお金が回らなくなって出た苦渋の決断が「キャバクラ」だった。


私が汗水垂らして働かなければならないその訳は、さっきから鬼のように着信を寄越す葉月(はづき)以外の何ものでもない。


「ーーーーもしもし」

『おい!お前今どこにいんだよ!?』


開口一番に葉月の怒号が飛んでくるのも別に今に始まったことじゃない。

だからわざわざ相手にしないのも常套手段なわけで、


「今仕事が終わったの。もう帰る」