逆を言えば、何も知らないと気づくことなんて出来ない。
「ご注文はいかがされますか?」
「僕はアイスコーヒーで。カイリさんは?」
ウエイトレスの人にもそんな "素振り" を一切感じさせない。
「……同じものを」
この男は、 "人に紛れる" のが上手いんだ…。
「マキから連絡がありました。彼女から連絡が来るなんて滅多にないので」
黒いスーツに黒の重たい前髪のバンドマンみたいなヘアスタイル。
やけに血色が薄くて同じ人間かと疑いたくなるような不気味な雰囲気を感じる。
「名前しか教えてくれなくて、外見の特徴を聞いたら "カフェで飛び抜けて美人な子" と言われたので、ここに入って来たときすぐ分かりました」
「……そうですか」
さらりと初対面の人にそんな事を言えるのは、彼が持つ感覚の問題なのか、
「すみません、ご挨拶が遅れましたね。ーーーーーー環(たまき)と言います」
微塵もそんな事を思ってないからなのか。
この男、何も読み取れない。
コーヒーが来るまで何も会話を交わさず、ただお互いの雰囲気を探るような時間を過ごした。
それから間も無くしてコーヒーが来て一息をつくと、口火を切ったのは環の方だった。

