発信ボタンを押す指が震えた。
まるで自分のものじゃないような感覚に近かった。
発信音が頭の奥まで響く。
呼び出しコールが一定のリズムを刻むのとは裏腹に、私の心臓は暴れている。
怒られるかもしれない。呆れられるかもしれない。
最悪、もう今まで通りには接してもらえないかもしれない。
『ーーーーーもしもし?カイリ?』
電話に出たマキさんが私の名前を呼んだ時、微かに携帯を持つ手が震えた。
『どうしたの?今日出勤じゃないでしょ?』
「……」
『カイリ?』
「…あの、」
不躾すぎるってわかってる。
けど、もうこれしか方法がないの。
「お願いがあるんです…」
『何?』
「不躾だって分かっています。マキさんに頼むのも筋違いだって」
『カイリ?』
「…さい」
『え?』
「お願いします…ーー私に、冷泉(れいぜい)組を紹介してください」
葉月が私の知らないところでまたお金を借りていた。
毎月払わなければならない分に上乗せされた額は、生ぬるい額じゃなかった。
返済は明後日。遅れればバカにならないペナルティが上乗せされて指名もろくにない私のお給料じゃ、生活費や家賃が払えない。

