「何で......?神社は?七織夜?七織夜!
どこに行ったの!?」

叫んで呼んでも七織夜の返事はない。

ガサガサッ

「だ、誰!?」

突然、近くの茂みから何かの気配を感じた。

「そこに誰か居るのか?」

すぐに人の答えが返って来たので強張って身構えていた体は安心して力を抜いた。

「何じゃ、お前の様な娘がこの様な所で何をしておる?」

茂みから現れたのは、
長い白髪を後ろで束ねた1人の老女だった。

「あ、あの!私はここに住んでる者なのですが、突然この大木が光り出して...
気がついたら家が跡形もなくて...一緒にいた兄も居なくなっていたんです...。」

「娘、おかしな事を言うでない。ここはもう長い間ずっと森しかないぞ?」

「そんな.....でも!本当なんです!」


「ふむ......嘘を吐いている様にも見えぬし...。もしそれが本当ならばこれは只事ではない。よし娘よ、取り合えずわしと村まで行くぞ。この辺りは日が暮れると物の怪達が集まって来る。」

老女に言われて空を見ると、
いつの間にか空は少し茜色に染まり始めていた。

「ほれ、山菜の雑炊じゃ。」

老女は村に着くと自分の住む小屋へ私を招き入れ、
囲炉裏で炊いた雑炊を振る舞ってくれた。

「頂きます。」

「お主、名は何と申す?」

「天の音と書いて天音です。」

「それではあまね、お前はあの聖なるご神木の光によってここへ来たのじゃな?」 

「はい、私も詳しくは分かりませんが...。
あのご神木からそう離れていないにも関わらずここへ来るまでの風景といい、全く別の世界のように思います。」

「恐らく私の推測では時を越えて来たのじゃろう...。」

「時を?」

「うむ、長年こうして巫女をしておると奇怪な事も多々とある。それに昔からあのご神木に縁のある言い伝えは数知れずあるからのぅ。時を越えると言うのもその数ある言い伝えのうちの1つじゃ。」

「あ、あの!もし本当にあの木が原因なら、私はどうやったら元の場所に戻れますか?」

自らを巫女と名乗る老女は、
暫く難しい面持ちで考え込んだ後に私を見た。

「ここから少し北へ向かった所に神力を持った神主が居る八之森と言う神社がある。その神主の力を借りれば或いは...。」

「行きます!道を教えて下さい、お婆さん!」

「誰がお婆さんじゃ戯け者!わしの名はあやめじゃ、そう呼びなさい。それに先程も言うたはずじゃが、この辺りは日が暮れると物の怪達が右往左往しておる。お主1人ではまず辿り着けまい。」

「そんな...。」

「どうしても行くと言うならわしの元で修業してから行くがいい。何も知らず行くよりはまだ望みがあるじゃろう。」

「それではどうか修行のほど宜しくお願いします。」

「うむ、それでは明日から修業に入るとしよう。今日はもう遅い、それにお主も色々あって疲れたであろう、ゆっくり休みなさい。」

「はい、ありがとうございますお婆...」

「オホンッ!!」

「...じゃなくてあやめ様。」

「うむ、まぁいいじゃろう。それでは明日の早朝、あの御神木の前にて待つがよい。」

あやめはそう言うと、奥の部屋へと消えて行った。

私は板の間に敷かれた干し草の上で横になる。

(早朝か...目覚まし時計も携帯のアラームもないのに起きれなかったらどうしよう...
でも今日は色々あって疲れたな...
まぁいいや、今日はもう寝る!
なるようになる...はず!)

私はそれ以上は余計な事は考えず寝ることにした...。