ザアァァ......

緑の葉の中を風が通り抜けて行く。
2016年、高校生活も最後の夏........

「暑い、ヒマ~。」

とある神社の敷地内に生える、
樹齢500年の大木の下で独り涼みながら私は呟いた。

この木がなんの木かは知らない。

でもこの木はずっと昔からあって、
どこか懐かしくて落ち着く感じがした。

「おいおい、ヒマなら少しはお前も手伝えよ天音(あまね)。」

私の双子の兄、七織夜(なおや)が風で落ちた葉を掃き集めながら文句を言う。

「だって、今そういう気分じゃないんだもん。」

「お前なぁ。」

私の言葉に七織夜は呆れた顔で溜め息を溢した。

『俺はここにいる...。お前は...何処にいるんだ?』

その時、不意にどこからともなく声が聞こえた。

「七織夜、今の聞こえた??」

「はぁ?とうとうお前、暑さで頭でもおかしくなったのか?」

どうやら七織夜には聞こえていないらしい。

『俺はここにいる...。お前は...何処にいる?もし聞こえているなら...応えてくれ...。』

「ほら!また聞こえた!」

「だから、さっきから風と葉擦れの音しかしてねーよ。」

「一体、誰の声...?」

私がそう呟いた次の瞬間、大木が眩しく光りを放った。

「ななな何っ!?」

「何だこの光は?」

さすがにこの光は七織夜にも見えているみたいだ。

でも私はあまりの眩しさにそれ以上、
大木を見ていられなくなり顔を背けた。

いつの間にかその場で倒れていたらしい私は、
起き上がって辺りを見渡し、
思わず言葉を無くしたまま呆然と立ち尽くした。

そこには、
あの不思議な光を放った大木が変わらずあるものの、
七織夜の姿も神社も影も形も無く、
ただの森と化していたのだ...。