紅茶にはミルクと蜂蜜を

「ちょい待って、風見栄次郎…風見栄次郎って確かうちらの通ってた高校の…」

「はい、私立風見読高等学校の理事長をなさってます。」

「えっあの…営むってことは…あのいかにも店主って感じのコーヒー豆を煎っていらっしゃるご老人は…」

「風見栄次郎さんですが?」

「「えええええ!!??」」

 空いた口が塞がらない。まさかネットで適当にヒットしてあっここいいじゃーんと軽い気持ちで来た喫茶店が、まさか私の通ってた高校の理事長の店だったなんて。どんな偶然だ。

 カウンターのご老人、風見栄次郎さんがこちらを見てにこりと微笑む。ああ、確かに言われてみれば行事の時に見たことのある顔のような。しかし、挨拶の時はだいたい佳代とおしゃべりしていて聞いていなかったので記憶が薄くて当然である。

「ところで本題ですが、」

「あっ、はい。なんでしょう」

 風見さんの自己紹介が強烈過ぎて忘れかけていた。そういえばまだ話の途中だ。

「そういった写真を恋人に要求されれば、多くの方は『機嫌を損ねて別れることにはなりたくない』という恐怖心から送ってしまいがちです。」

「でも夏生は送らなかった、正しい判断やわ」

「ええ、おっしゃるとおりです。夏生さんは大変勇敢でいらっしゃいます」

「ほおぁっ!?えっ、いやあのありがとうございます…」

 風見さんが私に微笑みかける。褒められつつさらに不意うちの名前呼び。心臓に悪いことこの上ない。

「ところで夏生さん、最近彼氏さんとはどれくらいの頻度で会われていますか?」

「頻度、ですか。職場が同じなのでほぼ毎日ですかね」

「これまでに何か行動の制限などは?」

「制限…制限って言うほどでもないですが、幼馴染と遊びに行った時に彼凄く怒って…」

「あー同窓会んときのあれやね」

「暴言吐かれたりして、あの時はちょっと怖かったかな」

 途端に風見さんの顔が険しくなる。

「私思うんですけど、夏生の彼氏ちょっとDV気質なんちゃうかなーって」

「えっ!?!?そんなことないない!!だってすごく優しいよ!佳代も知ってるでしょ、何回も話聞いてるんだし」

「だからこそ。二面性ある人って怖いやん」

二面性って…そこまで言わなくても、と同意を求めて風見さんを見る。

「佳代さんの仰ることはあながち間違いでもございません。そういう男性は案外普段は優しかったりするものです。気分の波が大きいとでも申しましょうか」

「ええっ、風見さんまで!」

佳代は風見さんの同意を得てドヤ顔で頷いている。くそう、イケメンの同意がそんなに嬉しいか〜!
それはさておき彼氏のことだ。2人にまで言われてなかなかもう否定は難しいかもしれない。私の彼氏は気付かなかっただけでDV彼氏だったと言うことか…うーん。