紅茶にはミルクと蜂蜜を

「お待たせしました。ケーキセットのモンブランとショートケーキでございます」

「はいっありがとうございます!」

 店員さんが恐ろしく綺麗な笑顔で見つめるものだから、緊張して返事が上擦ってしまった。

「紅茶はこの砂時計が落ちきった頃が飲み頃です。ミルクと蜂蜜を用意しましたので、お好みでどうぞ」

「えっ蜂蜜?砂糖やないんですか?」

 さっきまでポカンとしていたくせに、佳代はもう見慣れたのか彼に話しかけている。流石は外国帰り。シャイなジャパニーズとは格が違う。

「はい、そちらのお客様が先程机に伏せて唸ってらっしゃったので。蜂蜜はリラックス効果がありますから。」

 私は大変恥ずかしい様子を見られてしまっていたようだ。佳代の笑い声で更に頬が上気する。

「お気遣い…どうもありがとうございます…」

「いえいえ。…ところで、少しお伺いしたいことが。」

「?なんでしょうか」

「先ほどのお客様の恋人のお話なんですが」

「「…えっ?」」

 予期せぬ質問にクエッションマークが頭を埋め尽くしていく。佳代も困惑しているようだ。まさか聞かれていたとは。

「店員さん、そういうんはちょっとプライバシー的にアウトな気しますけど」

「すみません、たまたま耳に入ってしまったもので」

「佳代、そんな怖い顔しないのー笑顔笑顔」

「当事者のあんたがいいんなら私は別に構わんけど」

 そりゃあ私も少しびっくりしたけれど、別に聞かれて物凄く困るような話ではない。ムスッとしている佳代を宥め、店員さんに向き直る。

「それで、私の恋人がどうかしましたか?」

「私、こういう者でして」

 と言って彼は私に一枚の名刺を差し出した。

《 butler・love adviser

         Yoshiya Kazami 》

「ぶ、ばとらー?よしや、かざみ」

「butler…って執事!?店員さん執事なん!?!?」

「はい、オランダのbutler academyを卒業しております」

「かざみさん、ですか」

「はい。私、この喫茶店を営む風見栄次郎の養子であり執事、そして恋愛アドバイザーをしております。風見嘉弥と申します。」