珍しく母の声ではなく目覚ましの電子音で目を覚ました。なんてったって今日は幼馴染がカナダから日本に2年ぶりに戻ってくる日で。昨夜はもうわくわくして寝れない…こともなかった。人間結局睡魔には抗えないものだ。

 身支度を済ませ、携帯を充電コードから引き抜く。何やら新着のLINEがあるようだが、きっと彼氏との面倒な攻防戦の続きだろう。面倒くさいので無視して佳代からのメールを開く。

『いま天王寺駅だけど、まだー?』

「まじか、はやっ!」

『今家!!待ってて10分で行くから!!』



 電車を降りるやいなや全力疾走し、待ち合わせ場所に息も絶え絶えにたどり着いた。佳代が驚いた顔でこっちを見る。

「ほんまに10分で来た、すご
 大丈夫?汗だくやけど」

「だいっ…大丈夫…ひさしぶり佳代…会いたかった…」
 
「なんかやばい犯罪者みたいになってるやん…
とりあえず落ち着いて、はいひっひっふー」

「ひぃ…ひぃ…、うー…ちょっと落ち着いてきたかも
なんかもう佳代が英語じゃなくて関西弁を話せてることにものすごく安堵してる自分がいる」

「そりゃ生まれてからずっと話してるんやからそんなすぐ抜けへんよ。
…それにしてもほんまに久しぶりやな、日本も…この間抜けな友人の顔見るんも」

 そういって佳代は私の頭を撫でる。駄目だ同性なのにちょっとキュンときた。いかんいかん。

 メールのやり取りはこまめにしていたとはいえ会うのは二年ぶりで、話したいことが山ほどある。それは佳代も同じだったようで。

「そやなー、久しぶりにおしゃべりしたいし。
夏生のおすすめの店とかないん?」

「私がおしゃれな雰囲気のいい店知ってるとでも?」

「あーないな、ごめん聞くだけ無駄やったわ」

「そんなにスッパリと言われるとちょっと傷つくよぉぉ」

「はいはいごめんごめん。そうや、最近スマホに変えたんやろ。パッと良さげな店調べて」

「はいよー
全く、相変わらず佳代さんは私遣いが荒いですなぁ」

 文句を言いながら携帯の画面を開くと、LINEの新着が目につく。うーん…と唸っていると、佳代が画面を覗き込む。

「これが言っとった彼氏?うまくいってへんの?」

「いやー、うーんなんといいますか。
とりあえず店探そ、店」

 怪訝な顔をする佳代にニッと笑いかける。ゆっくり座って話せる場所を見つけるのが先だ。